宮古島挑戦記 2018 – 第15話「Good is not good enough. 半分だけ開いた扉」

      2018/06/03

宮古島2018_フィニッシュ

第14話「フィニッシュラインで」に戻る

 

12時間切りは絶望的になった。

走れば即座に全身が痺れ、回復のためにエイドで何か口にしようとしても、固形物や甘いものは身体が受け付けてくれない。バイクで絶好調だと言い切ったのが随分前のことのように思える。

それでも、これまでのように「ロングなんて無理だ」とか「もうやめたい」とは思わない。走りから歩きに切り替えるたびに湧いてくる情けない気持ちは横に置いて、今できることを考えるようにする。

スイムとバイクは去年より良かった。それならランもだ。せめて、去年の自分より前に進んだことを見届けたい。残りはあと12km。目標は達成できなくても、最善は尽くさなければ。

ただ、今にも止まってしまいそうなペースでしか進めない。この痺れさえ抜けてくれたら…。

 

「はっ!こっ、駒田さーん!」

 

すると、その場の空気を変えるような元気な声が飛んできた。バイクにまたがってそこにいたのは、日本トライアスロン界のレジェンド。それなのに笑いの刺客。俺の大事な友人。河原 勇人がそこにいた。

 

「駒田さん!もう甘いものは入らないでしょうから、これを!」

 

勇人が勢いよく差し出したのは、エイドでもらえるストロングマンボトル。これに何が?おずおずと口をつけて吸ってみる。

全く予想もしない味がボトルから飛び出してきた。常温のしょっぱい何か。さっきまで何をどうしても受け付けなかったはずなのに、驚きのせいかストンと喉から胃に落ちていく。

 

「え?え?」

 

「具のない味噌汁!河原汁です!!」

 

かわはらじる。なんだそれは。自信に満ち溢れた姿で胸を張る勇人。一拍遅れて笑いがこみ上げる。さすがだ。さすが、登場だけでOnジャパン全てを笑いに巻き込む男。

 

「今駒田さんに必要なのは、きっとコレです!頑張ってください!!」

 

河原汁をグイグイ飲み、ボトルを勇人に返す。きっとこれは俺を助けてくれる。勇人と握手して先に進む。

河原汁

 

勇人と別れて1km進むと、31km地点の宮古島温泉が見えてきた。そこにはまどかみかが待っている。往路で彼女たちに会ったときは、まだ「大丈夫」と言い切ることができたのに、今は随分とヘロヘロになってしまった。

 

「三ツ矢サイダー、いる?」

 

まどかが差し出してくれたペットボトルを受け取る。コーラに並ぶ俺の好物、三ツ矢サイダー。しかし、飲めるだろうか。おそるおそる口にしてみると、驚いたことにちゃんと飲める。しかもうまいと感じる。さっきの河原汁が効き始めているのかも知れない。

 

しげちゃんとすれ違った。辛そうだったよ。ギリギリになると思う」

 

三ツ矢サイダーを飲みながら、24km地点ですれ違ったしげちゃんの様子を二人に伝える。ここは応援の二人からしても判断を迫られるポイントだと思ったからだ。

もし俺としげちゃんのタイム差がさほど大きくないのなら、まどかとみかはここでしげちゃんを見送ってからフィニッシュラインに来ればいい。しかし、もし1時間程度タイム差があるのなら、しげちゃんをここで応援してから車で移動しても、二人は俺のフィニッシュには立ち会えない。

 

「二人でしげちゃんを応援してあげて」

 

今彼は、残り時間を計算しながらギリギリの状態でこちらに向かっているはずだ。俺にはその状態と気持ちがよく分かる。ここで応援の後押しがなければ、完走は覚束ない。しかし、断固とした口調でみかはこう言った。

 

「しげちゃんは私がいれば大丈夫。まどかはタクシーで先に行ってて」

 

「…うん、わかった」

 

しげちゃんは幸せ者だなぁ、そんな場違いなことを思いながら先に進もうとしたとき、まどかが手を差し出した。

 

「塩タブレット、いる?」

 

もう食べるのは無理だろうと断りかけたのだが、河原汁の効果を感じつつあったため、思い直して2粒受け取って口に放り込む。舐めるだけならいけるだろう。そして二人と別れて先に進む。

勇人からのまどみか。明らかに、俺はさっきより走れるようになっていた。8分50秒、8分30秒、8分10秒、7分20秒、6分10秒……1kmごとに回復していくのを感じる。

宮古島2018_ラン

 

(次はもっと補給をうまくやろう)

 

これまで、レース中に食えない飲めないでボロボロになるパターンばかりだった俺は、「食えないタレント」という不名誉な烙印を家族から押されていた。しかしそれも今年までだ。次はもっとうまくやってみせる。「次」をレース中に考えたことは、これがはじめてだった。

長い長いレースは、ようやく最終盤を迎える。市街地に入り、また暗い道を走り、そうしていると突如爆発的に明るい光に包まれる。それが、宮古島陸上競技場の灯りだ。

光に一瞬目が眩むが、すぐに周りを見回す。まどかとみかがそこにいた。「どうしてみかがここに?」と不思議に思ったが、疑問は後にして走る。1分1秒でもいいから早くフィニッシュするのだ。

Onジャパンのお祭り応援団、PI TRIの仲間たち、そして家族。みんなに迎えてもらいつつ、4度目のフィニッシュラインの手前まで辿り着く。

 

12時間切りはならず。
最初の花火にも間に合わず。
また遅かった。

それでも今の最善は尽くした。
そこに悔いはない。
去年のフィニッシュ後に感じたモヤモヤはない。

 

だから、思い切りフィニッシュテープを夜空に突き上げる。同時に思い切り叫ぶ。

宮古島2018_フィニッシュ

 

“Good is not good enough.”

 

叫んだ次の瞬間、その言葉が頭にパッと浮かんだ。

そうだ、次はもっと。まだやれる。まだやってみたい。

そのとき、半分だけ開いた「第2章」の扉を見た気がした。

 

第34回宮古島トライアスロン
Finish Time: 12時間48分37秒 (第33回大会: 13時間29分24秒)

 

最終話「預けたメダル」に続く

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