宮古島挑戦記 2016 – 第6話「ストロング青空ブース」

      2016/06/23

Irabu Ohashi

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夕陽の沈む伊良部大橋で、俺は途方に暮れていた。参った。なんでないんだ。テントがなくちゃ、ブース作れないじゃないか…。

Irabu Ohashi

2015年4月15日、Onブース出展とレース参戦のために、俺は宮古島に入った。Onジャパン立ち上げ2週間前、直前も直前。立ち上げ準備の合間を縫って少しずつ走ってはいたのだが、正直、練習不足は否めない。初参戦の去年よりも、圧倒的に練習量が少なかった。不安は大きい。それでも、宮古空港に到着し、トライアスリートを迎える看板を見れば、気持ちはググッと高まってくる。

Welcome board 2015

上着を脱いでTシャツ一枚になり、レンタカーの窓を全開にして、まず向かうべき場所、食事処「福屋」に行く。なぜなら、去年の宮古島最終日、帰る前に立ち寄ったここで、店のおばあちゃんとある会話を交わしていたからだ (宮古島挑戦記2014 エピローグ参照)。去年の続きを始めるのに、個人的にはここ以上の場所はない。注文するのは、あのときと同じものを。

「また来ました。ソーキそば、ください」

「おかえり、よく来たね。トライアスロンね?頑張ってね!」

「はい!」

おばあちゃんと再会の挨拶を交わしたことでテンションはうなぎ登りに。ソーキそばに加えてチャーハンも注文。ストロングなオリジナルセットを作った。

Fukuya Sokisoba

福屋で心とお腹を満たした後、前回と同じ宿泊先「皆愛マンション」に向かった。到着してすぐに屋上に上がり、最高の景色を楽しむ。向こうに見える来間大橋と来間島、ここを4日後にバイクで走るのだ。

Minaai Mansion 2015

景色をしばし楽しんでから、部屋でデスクワーク。そして、スイスとの電話会議。電話会議が済んでから、すぐさまEXPO会場の宮古島市総合体育館へ。荷物の到着を確認するためだ。よし、あるある。On関係の荷物で一山できている。

Strongman expo gate
Miyakojima gym
On goods 2015

一箱一箱開けて中身をチェック。シューズ、フラッグ、テントの骨組みと…。

あれ?

天幕はどこ?

骨組みだけじゃテントにならないよ。セットでなきゃ…。

背中にツーっと汗が流れる。脅かすなよ、ここでトラブルはいらないぞ。骨組みだけのテントってお前…。

……ない。

届いてない(汗)

その2時間後、少し旅に出たくなった俺は、伊良部大橋で膝を抱えながら、沈みゆく夕陽を眺めていた。倉庫に問い合わせても、配送業者に問い合わせても、天幕の行方は杳として知れず。ただでさえ色々ある中、ここ宮古島でまさかの高難易度なハプニング。こんなんばっかか、俺は。

それにしても美しい夕陽だ。明日からも晴れる気がする。もうテントいらないか。いっちょ、青空ブースにしてやろうか。水平線の向こうに沈む夕陽を眺めながら、半分やけくそ気味な気持ちになりつつあったその時、MayStormの大西さんからメッセージが入った。

「お疲れ様です!いまどちらにいますか?」

さて…俺はどこに行こうとしているのだろう。

「これからメイクマンに寄ってから、町でごはん食べようかと」

ん…?

メイクマン…メイクマン……

青空ブースをメイクマン……

閃いた!

「大西さん、僕も行きます!」

伊良部大橋から来間島に向け、俺は車を走らせた。活路はメイクマンにあり。メイクマンが何者かも分からないのに、半ば確信はあった。大西さんがレース前に立ち寄るところと言えば、ホームセンターだからだ。

1時間後、メイクマンに到着。素晴らしい。ストロングスタイルのホームセンター。大西さん、命の恩人です。

Makeman

メイクマンで必要な物資を調達し、俺たちはそのまま飲みに行った。飲んでいると、隣のテーブルの地元の人たちが、陽気な歌と踊りに合わせて順々に一気飲みを始めた。これがあの有名な、宮古島名物「オトーリ」か。ほうほう、地元の文化というのは興味深い。

…と思っていたら、当然のようにこちらのテーブルにまで順番が回ってきた。三味線のリズムに合わせ、有無を言わさずなみなみと注がれる泡盛。これは受けるしかない。気がつけば、俺は飲み屋の床に転がって天井を眺めていた。

Oto-ri_1
Oto-ri_2

2015年4月16日、宮古島2日目。深夜2時半にまで及んだオトーリ合戦のわりに、目覚めは悪くない。泡盛だからだろうか。地元のコンビニ「Coco!」でさんぴん茶とおにぎりを買い、食べながらストロングマンEXPOの会場である体育館へ向かう。

体育館に到着し、まずは荷物をブースの場所まで運び出した。骨組みだけのテントはどうしようもないので捨て置いた。ブースの場所にただ並ぶダンボールの山。さて、この状態からどうリカバリーするべきか。

On booth before 2015

大丈夫だ、慌てるな。数々のハプニングをギリギリドローで切り抜けてきた俺じゃないか。メイクマンも味方についてくれている。イメージは、アイアンマン・ハワイのOnブース。あえてだ。あえて、テントを持ってこなかったのだ。

自分自身に怪しく言い聞かせながら、頭の中のイメージに合わせてコツコツとブースを組み上げる。しかし、これで精一杯。これぞOn青空ブース。

On booth after 2015

うむ、意外と悪くないのではなかろうか。あえてだ。あえて、こうしたのだ。そうなのだ。そう考えれば何も問題はない。

ところが2時間後、問題が発生した。暑いのだ。天気が良すぎる。青空ブース、まさかの落とし穴。メキメキ体力が削られていく。帽子 + サングラスで完全防御だと考えていた。浅はかな俺め。

On booth after_2

このままではDNSの危険すらあると考え、ブースの見える木陰に避難。決してサボっているわけではない。

Too hot

木陰でサボること1時間。宮古島は引き続き快晴。雨露をしのげないOnブースは、雨に降られた時点で商売あがったり。晴れなのはありがたい。しかし、ここまで暴力的な日差しにさらされると、販売員の身がもたない。

木陰からじっとOnブースを見守っていると、近くに「AthleteX (アスリートエックス)」というブースが目に入った。Onアスリートの室谷さんも使っている、スポーツ専用の化粧品ブランドだ。その室谷さんがブースに立って手伝っている。

フラフラとAthleteXに引き寄せられていくと、見かねた室谷さんがテスターの日焼け止めを貸してくれた。塗ると少しひんやりした感じが気持ちいい。もっと塗らせてくれ。

AthleteX

日焼け止めのおかげか、日差しに対して少し気持ちが穏やかになった気がする。しかし、そんな心穏やかになりつつある俺を逆なでする、奇妙な歌が背後から聞こえてきた。この声には聞き覚えがある。

♪テントがないよぅ〜w
テントが届かないよぅ〜ww ♪

間違いない。ZOOTからの刺客、松原その子。何故かスイムキャップをかぶっている。それはそれで気になるが、テントのことに触れてくるとは許せん。今日こそ始末してくれよう…と思ったら、足首にかなり厳重なテーピングをしていることに気がついた。聞けば、怪我をしている左足首の調子がかなり悪いらしく、レースはスイムまでしか出られないらしい。去年はインフルでDNSだったその子。今年は一緒に出られると思っていたのに、残念だ。

Sonoko

AthleteXの力を借りつつ、木陰から断じて動かない作戦でEXPO初日を乗り切った。ホッとする間もなく、EXPO会場からそのまま飲み会に移行し、またもやオトーリの洗礼を食らう。昨日より激しい。「ストロングマン…これをクリアしなきゃなれないのね…」と諦めの境地で俺は意識を手放した。

EXPO2日目。引き続き木陰作戦を敢行しようと考えていたのだが、そうはいかなかった。昼過ぎくらいから、まさかの販売ラッシュに。青空ブースでなまりきった頭に喝を入れられた。そして15時には、恒例となりつつあるOnユーザー集合写真の撮影会を実施。去年を上回る数のOnユーザーに集まっていただいた。

Miyako photo session 2015_1
Miyako photo session 2015_2

こうして嬉しいEXPO2日目が終わり、明けてレース前日の土曜日。起きると、日焼けした場所がひどく痛む。頭もうっすら痛い。今日のEXPO販売はないので、ゆっくりと寝て休む。ただ、今日はバイクの預託をしなければならない。のそのそと起き出し、バイクを組み立て、様子を見るために来間島へ。

来間大橋を渡りながらギアチェンジを試してみると、なんだか様子がおかしい。カラカラ音が鳴るし、リアの一番軽いギアに入らない。あとで大西さんに診てもらおうと思いながら、来間島のお気に入りの場所に到着。スタート会場の宮古島東急ホテルを対岸に望む海岸だ。明日、レースがあるとは思えないほど静か。それでもあと20時間後にはレースがはじまる。

Ceepo Viper

海を見ながらボーッとしていると、不意に背中をつつかれた。皆愛の仲間かな?と振り向いてみたら、そこにいるのは仔犬。きみはどこから来たのかね?

仔犬のポチ(仮) を撫でながら引き続きボーッと海を見ていると、ヤツは左手首のリストバンドが気になるようで、ふんふんとにおいを嗅いでいる。面白いのとかわいいのとで好きにさせていたら、突然パクリといかれた。すかさず砂浜でレスリングに突入。

Pochi

来間島とポチに別れを告げ、宮古島東急ホテル近くのMayStormブースへ。バイク預託の前に、やや体調不良気味のCEEPO VIPERを大西さんと哉男に診てもらう。しかし、かれこれ30分ほど経っても進展していないように見える。「フレームか…?ホイールか…?」大西さんのつぶやきが怖い。

Viper operation

SHIMANOの黒川さんが大西さんに加勢。さらに、いつの間にか皆愛マンションの仲間たちが集まってきていた。「この2人で無理なら日本で直せる人いないよ」 Scottさん藤田さんが俺にささやく。「今年も田中さんに借りなきゃダメかもよ」 哲くんがニヤリとしつつ耳打ちしてくる。

Viper operation_2

「ダメだぁ、工作だ!!」

検査入院のつもりが、まさかの緊急手術となってしまった。一番軽いギアにどうしても入らず、直すためには何かのパーツを2mmくらい削らないといけないらしい。手術室に連れて行かれるVIPER。ただ見送るしかない俺。

そのとき、またも完璧なタイミングで響きわたるアホな歌声。

♪肩パットさんw かっわいそ〜w
バイク貸してあげよっか〜ww♪

俺のトラブルを嗅ぎつける嗅覚が尋常じゃない。狙っているとしか思えない。俺の目の前で「肩パットさんかわいそうの舞」をキメたZOOTの刺客。おのれ、くちおしい。

Sonoko dancing

1時間半後、まさかの事実が発覚した。フレームにもホイールにも問題はなかった。問題は、リアディレイラー (変速機) にあったらしい。「新品に交換すれば問題は解決。今のリアディレイラーのままだと、そもそも変速が決まらない可能性がある」という診断結果。

変速が決まらないなんて、考えるだけでおっかない。それなら交換してもらった方がいいよな…。

「ただ…58,000円…なんですよ」

五万八千。

ご…ごまんはっせんだと…!?

なんという戦闘力だ…。

30分後、息も絶え絶えになりつつバイク預託を完了。フラフラになりながら宿に戻ると、なんだか熱が出てきた。気にしないでゆり姉の作ってくれた夕食を仲間たちと一緒にいただくのだが、途中から頭がガンガンしはじめた。汗も止まらない。熱中症だろうか。

夕食後、自分の部屋でトランジションバッグを作っていると、哲くんのスマホからラジオが流れてきた。それに合わせ、Scottさんが不思議な踊りをはじめた。なんと俺のMPは削られてしまった。HPも危ういのにヤバすぎる。

Fushigi na odori

HPは黄色く点滅、MPはカラ。それでもなんとかトランジションバッグの準備は完了した。レースは10時間後。やれるのか。やるしかない。

Transition bags

第7話「DNF」に続く

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