宮古島挑戦記 2016 – 第2話「キャスパーとオリヴィエ」

      2016/05/31

Co-founders

第1話「Onをやめる?」に戻る

みんなになんて説明すればいいのだ。西内さん真紀さん篠崎さん岩本さん室谷さんまさみさん、Onにポテンシャルを感じて取り扱いを始めてくれたお店の人たち。何より、この仕事をはじめてから繋がった、たくさんの仲間たち。

「会社がOnをやめることに決まったから、ごめんなさい」で済むのか?済むわけがない。俺は本気でOnをやろうと思ったのだ。それに応えてくれた人たちに、そんな中途半端な言い訳ができるわけがない。

「会社、辞めるしかないか…」

どうせ、「Onをやるか会社を辞めるか」と言われたのだ。Onをやれなくなるなら、会社を辞めたって別にいいだろう。どうせ、もう結婚しているわけじゃない。俺一人、別に何やったって生きていけるだろう。

「駒田さん、Onのキャスパーさんからお電話です」

悩みに悩んで、半ばヤケクソ気味に「ならやめたらぁ」と心を決めつつあった頃、On共同創業者3人の内のひとり、キャスパーから電話があった。

「もしもし」

「コマーダさーん!元気かい?」

そんなはずあるわけない。

「いや、正直言うとショックだ」

いつもだったら「アイムファインサンキューアンドユー」的なことを言ったのだろうが、今はそんな気分じゃない。率直に話すことにした。

「……ヒロキ、来月日本に行こうと思うんだけど、会えないか?今後のことを相談したい」

断る理由なんてあるはずもない。「今後のこと」とは、「これから先、日本でOnをどうするか」ということだ。それを話せるなら、まだ少しは可能性があるということだ。

「是非会いたい。話したい」

「グッド。では日本で会おう」

Onのトップに、これまで俺が日本で何をやってきたか、余計なフィルターを間に入れずに説明できる。これはまたとないチャンスだ。キャスパー来日までの3週間、俺は資料作りに没頭した。

この1年半でやってきたこと、やろうとしてできなかったこと。もしそれができたら何が変わるのか。そして、俺はOnを日本でどうしたいのか。何故、Onが日本にないといけないのか。それら全て、使い慣れない英語に込めて説明しなければならない。

9月が終わろうとしていたある日、俺はその日も資料作りに取り組んでいた。気がつくと、メールボックスに久しぶりのあの人からメールが届いていた。On共同創業者のひとり、オリヴィエだ。

「ヒロキ、元気かな?実は、10月頭に成田空港にトランジットで立ち寄るんだ。コナに行くためにね。忙しいとは思うが、少しだけでも会えないだろうか。ランチでも一緒にどうかな?」

他の誰から誘われても断ったかも知れない。でも、オリヴィエは別だ。俺は指定された日に成田空港に向かった。寿司好きのオリヴィエのために、空港内の寿司屋に入る。話したいこと、聞きたいことは山程あるのに、あまりうまく言葉が出てこない。すると、オリヴィエから切り出してくれた。

「ヒロキ、あの話は聞いた?」

「うん、聞いた。残念だ」

「ヒロキはOnをどう思ってる?」

どう思っているか。簡単そうで難しい質問だ。少し考え、思ったことをそのまま言った。

「Onは、俺の人生を変えてくれた。走ることが楽しくなった。新しい友達もできた。それは全部Onのおかげだ。感謝してる」

オリヴィエはいつもの柔らかな笑みを浮かべ、「それを聞けて嬉しいよ」と言いながら握手してくれた。そして、彼はコナに向かった。

数日後、キャスパーが来日した。最初、話したい英文を書いたメモを見ながらプレゼンしていたが、途中からメモは無視した。そんなプレゼンで何が伝わるものか。たどたどしく、時に噛みつつ、それでも全力で伝えた。

「日本からOnを無くしたらダメだ。そして、Onのメッセージを日本人に届けるためには、商社では限界がある。日本に子会社を作らないといけない」

日本に子会社を作る。それこそが、このプレゼンで訴えたい最大のポイントであった。OnにはOnの、商社には商社の、それぞれの論理と優先事項が存在する。Onが伝えたいメッセージを、商社がそのまま市場に伝えられるとは限らない。それが、俺が1年半で感じていた限界であった。

キャスパーは考え込んでいるようだった。それはそうだ。成功の道筋がもう見えているヨーロッパやアメリカとは違い、まだそうは言えない日本の現状を見て、「はいそうですね」とは言いづらいだろう。

「話は分かった。ヒロキの気持ちも分かった。ただ即答はできない」

真剣なキャスパーの目を見て、本気で考えてくれていると分かった。それだけで今は満足だ。そう思ったとき、キャスパーが自分のiPhoneを見て表情を和らげた。

「ヒロキ、誰からだと思う?」

「え?」

「オリヴィエだ。『ヒロキを必ずファミリーに迎え入れろ』と言ってる」

そう言って、茶目っ気たっぷりにウィンクするキャスパー。わざわざ成田で会いたいと言ってくれたのはこのためだったのか、オリヴィエ。

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第3話「ビッグ・イン・ジャパン」に続く

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