宮古島挑戦記 2016 – 第13話「笑いの刺客」

      2016/07/19

Hayato Thai Kick_1

第12話「再び宮古島へ」に戻る

宮古島2日目、4月14日(木)。

このハマのダンディズムと世界の鎌田がいれば雨など降るわけがない…などと言い放ったものの、調子こいたせいで天の怒りを買ったのか、昨晩は目を疑うほどの雷雨に見舞われた。川のようになった道路を乗り越え、ようやく夕食にありつき、皆愛マンションに帰った途端、パタリと眠ってしまったのだった。

明けて今朝、昨晩の雷雨はどこへやら。まだ雲は厚いがすっかり晴れ渡っている。思わず屋上に行き写真を撮る。さあ、今日からストロングマンEXPOだ。

Kurima Island 2016

11:00、宮古島市総合体育館前でブースを設営中、生真面目な表情の中に鋭い笑いを懐刀のように隠し持った男が近づいてきた。彼の名は河原勇人。圧倒的な練習量と斬新なアイデアをもって、数々の実績を残してきた伝説のトライアスリートである。

2014年に初めて宮古島に参戦したとき、ワイドーパーティーで河原さんは選手宣誓を行った。その堂々として爽やかな雰囲気には、大いに感動させられたものだ。

そんな河原さんだが、実は隠された一面があった。神に愛されたレベルでナチュラルに笑いを巻き起こし、かつ、自らも笑いに貪欲なのだ。彼のその実力を目の当たりにしたのは、2015年の木更津トライアスロンであった。

木更津トライアスロンレース前日の「レース攻略講座」の講師役として、河原さんが登壇すると聞いた俺の気持ちは高鳴った。俺の初宮古島の思い出の中でも、一際鮮明な記憶として残る河原さんのお話だ。俺は最前列に陣取ってじっくり聞こうと考えた。

河原さんのプレゼンは全身全霊の一言。ダイナミックな身体の動きで非常に分かりやすい。バイクから落車した際の対策講座では、壇上で受け身を取って転がり回りながらマイクで観客に語りかける大サービス。

ウェットスーツのスムーズな着方、ヘルメットの正しいかぶり方、ランニング中に良い姿勢を取り戻すための「室伏ストレッチ」、そして最後にメカトラブルに関する対策。河原さんがチェーンをサッと触ると、アッサリとチェーンが内側に脱落する。さすがだ、実に手際が良い。「ほぅ…」とため息のような感嘆の声が後ろの方から聞こえる。ニッコリとして対応策を教えてくれる河原さん。

「フロントディレイラーをアウターにして、ペダルを回すと上手くはまることがあります……あれ…こんなときに限ってはまりませんね…(汗)」

汗をかきながらもあくまで爽やかな笑顔の河原さん。

「そういうときは、リアのプーリーを前に押したらチェーンがたわむので、こういうふうに引っ掛けましょう…」

しかし、なんとチェーンははまらなかった。観客はざわつきはじめる。

「あ、あれ…プ、プロなのに……(汗)」

ここで会場爆笑。最前列で我慢に我慢を重ねてきた俺だが、不覚にも耐えきれなかった。「がはははは!(泣)」と腹をよじって笑い転げる俺たちの目の前で、あくまで実直にチェーンに取り組む河原さん。笑いの地獄絵図と化したレース攻略講座。俺の中で、木更津トライアスロンが「笑ってはいけないトライアスロン」に変化した瞬間であった。

Puronanoni

木更津から戻ってきて以来、ことあるごとに河原さんは「次会ったときは私にタイキックをお願いします」と言い続けた。散々笑い倒されたのは俺で、本来のルールに則れば、タイキックを食らうべきは俺のはずだ。それなのに、自らタイキックを欲しがる河原勇人。貪欲すぎる。

その笑いの刺客、河原勇人が設営中のOnブースに現れたのだ。緊張が走る。

獲物を狙う鷹の目をした勇人が俺を見る。緊張に慄く俺。即座に腰を90度の角度に折る勇人。お辞儀した状態でも眼がギラリと光るのが見える。そして弾かれたようにピーンと直立不動になると、彼は宣戦布告を行った。

「あっ、はっ、こっ、駒田さん!
タイキック、タイキック宜しくお願いいたします!!」

くっ…笑わねぇぞ……。

「い、いまやった方がいいですかね…」

「いえ!お、オーディエンスが欲しいので、On写真撮影会の前のセレモニーとして、お願いいたします!」

この欲しがり屋が…笑い殺す気か……!

「わ、わかりました…明日の16:00、ブースまできてください……」

「やっと禊を済ませられます!ありがとうございます!!」

レース前にトップアスリートにタイキック…許されるのだろうか…。手加減した方がいいんじゃ…。

「手加減は無しでお願いします!朝練メンバーに顔向けできないので!!」

その顔向けいらないんじゃ…。だってあなたトップアスリート…。

「では明日、15:50に参ります!
♪デデーン! ♪河原〜タイキック〜」

がはははは!!(泣)

…くそうこんなので。

Kawahara Thai Kick_Practice
* この写真は予行演習です。

ブースオープン前から異常に体力を消耗させられたが、世界の鎌田の助力のおかげもあり、無事にブース完成。ちょうどその頃ヤスコさんも合流する。これが記念すべきOnジャパン初ブースだ。ただ、ブース周辺でチラチラ見える笑いの刺客・タイキック勇人が脅威。笑ってはいけない。

On booth 2016

翌日4月15日(金)、宮古島3日目。「Onユーザー集合記念撮影」の日。Onジャパンができる前から続けてきた、もはや恒例行事である。全国から集まったOnユーザーのみんなと一緒に写真撮影できる、俺にとっては非常に嬉しい時間だ。

その嬉しい時間を笑いで粉砕すべく、撮影会の様子を虎視眈々と狙う笑いの刺客がひとり。言わずと知れた河原 “タイキック” 勇人。

宣言通り、集合時間の10分前にOnブースを訪れ、「タイキック、タイキックはいつですか」と血走った目で訴えかけてくる。そしてときたま「♪デデーン ♪河原〜タイキック〜」と呟いている。笑いへの渇望が尋常ではない。

その彼を半ば無視し、俺は撮影会を進行させていった。昨年よりさらに多くの方に集まっていただき、嬉しい限り。Triathlon LUMINAのカメラマンも飛び入りで撮影してくれていたようだ。

On users photo shooting_1
On users photo shooting_2

撮影会が終わり、俺は河原さんに近づいた。ほんとにやるんですか。レース後の方がいいのではないですか。というかそうしましょ。

「やらせてください!禊を済ませなければなりません!!」

何があなたをそこまで駆り立てるのですか…。

「それにこれは駒田さんとの、男と男の約束です!!」

そうでしたっけ。約束しましたっけ…。

仕方ない。ではそこに立ってください。お尻を突き出して。いきますよ…。

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【以下、心の声】
下段回し蹴り。
脛ではなく足の甲ではたくイメージ。
当たった瞬間にすぐに引く。
派手に見えてダメージのないところを…
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Hayato Thai Kick_1

「おぶぁ!!」

一際大きく叫び、これ以上なく見事なエビ反りで吹き飛ぶ河原さん。

Hayato Thai Kick_2

そんなに吹き飛ぶほどやっていないはずだが…。身体能力にモノを言わせたリアクション芸も超一流か。とりあえず抱き起こしハグ。

Hayato Thai Kick_3

「これで念願が叶いました」と、俺の耳元で呟くタイキック隼人。

これで良かったのだろうか。とりあえず役目は果たしたのだろう。最後は「#お前のハートにバキューン」で締め、終了とした (ビデオ「勇人タイキック」参照)。

レースまであと2日。

第14話「二度目のストロングマンへ」に続く

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