宮古島挑戦記 2014 – 第9話「レーススタート!」

      2016/05/19

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第8話「宮古島、上陸」に戻る

■ 宮古島5日目 – 4/20(日) レース当日

3:20
起床。23:30頃に寝たはずなので、約4時間睡眠。いつもなら全然足りないはずだが、目覚ましの音がなる前に起きた。Scottさんはイビキをかいている。熊さんは起きているのかも知れないが、ベッドに横になっている。

いつもの朝と同じように、シャワーを浴び、髭を剃り、歯を磨く。トランジションバッグの中身を確認して、ゆり姉が用意してくれた朝飯を頂く。これから激しい運動をするということで、少し塩気の強いおにぎりと味噌汁。最高にうまい。この朝飯が、長い一日を乗り切らせてくれるはずだ。

4:30
皆愛マンションを出発。「Hi-RIDGE」の高嶺さんに、スタート地点の東急リゾートまで車で連れて行ってもらう。てっきり歩いていくものだと思っていた。ありがたい。

会場に着いてまずやることは、バイクの最終チェック。まだ真っ暗なところで、タイヤの空気圧、補給食とドリンクの確認を行う。タイヤの空気圧のチェックには特に気を遣った。CEEPOメカニックの方のアドバイス通り、キッチリ9気圧。使い慣れないフロアポンプだったが、なんとかできた。

ただ、空気圧のチェックの最中から、腹具合が思わしくない。空気圧よりも腹圧の方が怪しく高まってくる。

バイクチェックを終えようとする頃、Triathlon LUMINAの角田尚子編集長が通りかかった。不安そうな尚子さん。ものすごく気持ちが分かる。レース前から「同志」と呼び合って励まし合ってきた。しっかりと握手をして、健闘を誓い合う。

尚子さんと別れた直後、いよいよ腹が限界に近づいてきた。早々にバイクエリアを抜け、東急リゾートのトイレに向かう。ただ、こういうときは同じことを考えている人が多い。当然、満員で入れない。

すると、タイミング良くソノピからグループメッセージが。彼女の部屋のトイレを貸してくれるとか。部屋に行くと、マスクをかけ、額に氷嚢を乗せた、正しい病人スタイルのソノピがベッドに横になっていた。

「どうしたの!?」

「熱が~38度5分くらい~…」

「昨日もブース立ってたじゃん!」

「ほんとは熱あったんだよね~…大丈夫と思ってたんだけど…」

元気に見えたのは、そう見せていただけだったのか。これではレースは絶望的だ。一緒のレースに出られると思っていたのに、残念すぎる。

ガックリしつつもトイレを借りていると、熊さん、Scottさん、美穂ちゃんが部屋に来たのが声でわかった。みんなも驚いている。「その子!どうした!!」と叫ぶ熊さんの声。なんていい男なのかと便座の上で感激。

ソノピは「スイムだけでもやろうかな…」と諦めきれないようだ。すると、Scottさんがビシッと「危ないね。無理しちゃいけない」とアドバイス。腰を痛めてヘルニア寸前、バイクではコルセットを着けて走ると言うScottさんのセリフとも思えなかったが、彼の顔は本気だ。半分お尻を出し、美穂ちゃんに腰をマッサージしてもらいながら。Scottさんは自分が無茶しても、人が無茶するのは止める人なんだろう。優しい人だ。半分お尻が出てるけど。

トイレと部屋を何往復かした後、6:00にソノピの部屋を出て、最終受付に向かう。外は人で溢れかえっていた。レース1時間前、熱気が高まりつつある。少し気を取られているうちに、いつの間にか仲間とはぐれてしまった。

トランジションバッグの預け方がイマイチ分からなくてまごまごしていると、Scottさんが俺を見つけてくれた。おかげで、無事にバッグを預けられた。ナンバリングも完了。「811」の数字が左肩に描かれた。心拍数が上がる。

6:20
そろそろスタート地点に向かわないといけない。その前に一緒に写真を撮ろう、とScottさん。緊張をほぐすため、無理やり笑って自撮り。写真を撮った瞬間、後ろから聞き覚えのある声が。

「今、入ったでぇ~!気付いた?(^o^)」

急いで撮ったばかりの写真を確認すると、俺とScottさんの間にいがちゃんがバッチリと。最高のタイミングとポジション取り。さすがだ。

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・2014年4月20日 Facebook

6:45
811 駒田博紀、行ってきます!

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Scottさんといがちゃんのおかげで緊張もほぐれた。スイムスタート地点に近づいていくと、足達さんが声をかけてくれた。足達さんの奥さんに、記念に一枚獲ってもらう。

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最後の写真撮影後、スタート地点手前のプールで、軽くウォーミングアップ。Scottさんはウェットスーツ無しで泳ぐらしい。お腹が引っかかって着られなくなったようだ。

「ウボェ~!もう疲れたね。。。ボエ~ッ!!」

レース直前とは思えないレベルのえずき方を見せるScottさん。本当に大丈夫なんだろうか。「無理しちゃいけない」と伝えるべきか…?

一抹の不安を覚えつつ、スタート地点へ。「1時間未満のスイマー Fast Swimmer」と「1時間以上のスイマー Intermediate Swimmer」の二つに分かれている。前者はコースの内側を最短距離で進む人たち、後者はグルリと外側を回って進む人たち。空手家のくせに、水中バトルは滅法弱い俺。迷わず後者へ。

先に進むと、「駒田さぁ~ん!!」と声をかけられた。知久さんと梅ちゃんだ。手を大きく振って応える。わざわざ一泊二日の日程で来てくれたのだ。ありがたい。「絶対に完走」の想いを強くする。

ドキドキしながら「1時間以上のスイマー Intermediate Swimmer」エリアのさらに外側へ歩を進めていくうちに、また一人になった。興奮はどんどん高まっていく。一方で不安な気持ちも残る。

「駒田さん!」

「小田嶋さん!」

TEAM TRIATHLON BLUE-TRAIN の小田嶋さん。宮古島で初対面だったが、Facebook上では知り合って結構長い。体育館前のストロングマンEXPOで、Onのブースに立ち寄ってくれたのだった。

そんな小田嶋さんに会えて、グッと心強く感じた。小田嶋さんは、前島さんも探して連れてきてくれた。

「前島さん、ついに来ちゃいましたね!」

「いや~、ヤバいですね、この雰囲気!!」

満面の笑みを浮かべる前島さん。さすがに強い。俺は笑えているだろうか?無理やり笑って宣言した。

「ゴールで会いましょう!」

7:00、第30回全日本トライアスロン宮古島大会、スタート。

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■ スイム 3km

1,500人のトライアスリートが一斉に海に駆け込んでいく光景は壮観の一言。ただ、1分1秒を争うトップアスリートと違い、俺は完走できればいい。

ゆっくり歩いて海に入る。これ以上は歩けない、というところまできて泳ぎ始める。顔を海につけた瞬間に分かる水の透明度。ダイバーが海底に待機しているのが見える。周囲を泳ぐ人たちの表情が海中でも分かる。こんな海は見たことがない。

コースの一番外側から海に入ったためか、バトルはほとんどない。ゆっくり大きく泳ぐ意識で進んでいくと、最初のブイ(600m地点)がもう目の前にあった。こんなに楽に泳げるなんて、どうしたんだろう?

ブイ周辺はさすがに混雑しており、多少のバトルはあった。それでも、足首を軽く掴まれる程度。渡良瀬のときのように、背中に乗っかられることはない。それなら何の問題もない。事故で首が回らなかったのが嘘のようだ。大船ゆ~かり整骨院の茶鍋院長に感謝しつつ、引き続き気持ちよく泳ぐ。

宮古島では2つめのブイ(1,700m地点)で50分を過ぎてしまうと、その時点で終了となってしまう。レース前はその点も少し心配だったのだが、蓋を開けてみればアッサリと2つめのブイもクリア。

2つめのブイを曲がると、少し違和感を覚えた。同じように泳いでもあまり進まない。潮の流れが逆に向いている?ここまで楽をさせてもらったので、ここからは頑張らないと。自分なりに積み重ねてきた基本に忠実に泳ぐ。

不思議と、このあたりで多少バトルらしきものが増えてきた。肩を掴んで前に進もうとする人、足首を掴んで引っ張る人が増えてくる。バトルの練習をしたことがないので対処がよく分からない。ともかく、空手の外受けの要領で、肩を掴もうと伸びてくる腕を軽く弾く。足首を引っ張ろうとする人に対しては、足首だけで細かくバタ足して逃げる。

しかし、そんな無駄な動きをしていたら疲れてしまった。もう掴むならどうぞとばかりに気にしないようにしたら、今度は掴まれない。なんなんだ。

そうこうしているうちに、いつのまにか3,000m終了。手元のTIMEXによれば、1時間5分。1時間15分を想定していたことからすれば、悪くない。というか、出来過ぎだ。

快調に泳いでいたと思ったが、砂浜に上がるとやはり身体が重い。他のアスリート達は砂浜を駆け抜けてトランジションに向かっている。俺は無理せず、歩いて向かおう。

「こ~ま~だ~さぁ~~ん!!」

知久さん!梅ちゃん!

声を張り上げて応援してくれる二人。歩いてなんていられるか!応援に応えるため、拳を突き上げながらダッシュ。息が切れるが、しかたない。

シャワーに並び、ザッと水を浴びる。バイクが並んでいる場所の手前の芝生にタオルを敷き、そこで着替える。51.5デビュー戦の渡良瀬では、ウェットスーツが脱げなくて、トランジションエリアでブレイクダンスさながらの大暴れを演じたのだが、今回は冷静に。

そして、問題なくバイクを拾いに向かう。その手前にエイドステーションがあったので、呼吸を落ち着かせつつ、水をゆっくり飲む。

「……さん!駒田さん!」

誰だろう?周りをキョロキョロ見回す。

「…さん!のんびり水飲んでる場合ちゃいますよ!駒田さん!!」

真紀さん!!

っていうか俺、叱られてる?なんで!?

真剣な表情で声を上げてくれる真紀さん。再び身体の奥から力が湧く。真紀さんのところまでダッシュ。そして思い切り握手。真紀さんは何か声をかけてくれたようだが、テンションが上がり切っていて理解できない。ただ一言、「おう!!」とだけ叫んでバイクの元へ。息が切れるが、もうしかたない。

スイム: 1時間5分54秒 (午前8時5分54秒)

■ バイク 155km

スイムはうまくいった。ただ、次のバイクが最大の難関。アベレージで25km/hを超えていかないと、15:10のバイクフィニッシュの関門を越えられない。自分のバイクで練習していたときは、アベレージ25km/hを超えるのは大変だった。しかも、100km以上乗ったのは、事故当日の1回だけ。

不安な気持ちを抱えながら、東急ホテル前を通ってバイクコースに向かう。CEEPO VENOMが速いことは昨日乗って分かっていたが、それでもこわごわ漕ぎ出す。そもそも、TTバイクというものに乗ったのは、昨日が初めてだったのだ。

ふとホテル側の沿道に目をやると、ソノピがZOOTのトライスーツを着て立っている。そうしたい気持ちは痛いほど分かる。大きく手を振る。その直後、知久さんと梅ちゃんも見えた。スイムフィニッシュから急いでここまで来てくれたのか。大きく声を上げて応援してくれている。

真紀さんの叱咤激励、レースに出たいはずのソノピ、そして弾丸応援ツアーの知久さんと梅ちゃん。自分でもハッキリ分かるほど熱くなってくる。一気に東急ホテルの敷地を抜け、バイクコースへ。

まずはバイクに慣れるために、DHポジションを取らず、自分のバイクと似た感じで走り始める。サイクルメーターを見ると、28km/h。自分の感覚より5km/hほど速い。長い直線が見えたので、DHポジションをとって、軽く踏んでみる。33km/h。下り坂を利用して、もう少し踏んでみると、アッサリ40km/hくらい出てしまう。力を込めるとすぐに反応してくれる。やっぱり凄いバイクだ…。

気持ちが高揚するが、無理しない程度に回す。それでもアベレージ30km/h以上をキープできる。面白いほど前の人たちを追い越せる。多少のアップダウンもあるが、全く気にならない。下り坂で重力(= 体重)を味方につけ、さらに踏み込み、45-50km/hを超えておいてから、その勢いをかりて一気に登る。風は一切味方になってくれない身体だが、この「重力作戦」ならどうだ。

重力を味方につけた俺は、池間島をクルリと回り、調子よく東平安名岬に向かって突き進む。追い抜かされるより追い抜かす方が多い。VENOMの速さに感動しつつ、気持ちよく進む。30分ごとにパワージェルとメダリストエナジージェルを交互に飲むことも忘れない。

調子は悪くないが、気温がグングン上がってきた。早くも背中がヒリヒリする。30℃近くあるような気がする。エイドでスポンジをもらって、背中と首を冷やす。暑さのあまり、水と氷入りのコーラをガブ飲みする。

基本的に、宮古島は風が強い。去年の第29回大会では、その強風に苦しめられ、バイクで脚を使い切ってしまったという声がたくさん聞こえた。ただ、今日はその風がほとんどない。その代わり、ものすごく暑い。こまめに水分を補給するが、足りている気がしない。汗が目に入って痛い。エイドごとに停止し、水とコーラを大量に飲む。

70km地点、東平安名岬。宮古島で最も美しい場所と聞いていた場所。そのエリアに入った途端、確かに雰囲気が変わった。他の場所では見られなかった百合の花が咲き誇っている。岬の断崖に咲く白い百合の花が、青い空と海に映えてとても綺麗だ。ただ、ゆっくりと景色を見まわす余裕は、そろそろ無くなってきている。

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東平安名岬のエイドで水をかぶり、パワージェルをコーラとアクエリアスで流し込んだ。そして走り始めてすぐに感じた違和感。スタート前に感じた例の差し込み。しまった、冷たいものを飲み過ぎたか…。

運の良いことに、東平安名岬にはトイレがあった。時間が勿体ないとも思ったが、ここで済ませておかないと、真っ白なVENOMの車体がとんでもないことになってしまう。迷わずトイレに駆け込んだ。

……手強い。

着席直後は鳴りを潜めていたにもかかわらず、ひとたび動き出せば土石流の如し。経験豊富な俺には分かる。これは1時間コースだ。かつての数々の戦い、殊に名勝負だった「鎌倉山の変」(2013年夏)を思い出す。あのときは通算2時間かかった。しかし今はレース中。1時間なんてもってのほか。どうしたらいい。

このレースには、ある願掛けをしてのぞんでいた。全くの無名ブランドが日本市場で成功すること、走り始めて1年3ヶ月の俺がロングに完走すること、比べれば後者の方がはるかに簡単だ。簡単なことをできない奴が、難しいことなんてできるわけがない。でも、簡単なことでも積み重ねていけば、いつか難しいことだってできるかも知れない。だから、このレースだけは完走しないわけにはいかない。

それなのに、その挑戦がトイレで終わる…そんなことは許されない。なんか俺っぽい終わり方だけど。

「そんなことがあってたまるか!」と東平安名岬のトイレの個室の中で、人知れず拳を握り込む。しかし、力めば力むほどトイレから脱出が遠のく。脱出できなかったら、「DNF”R” (造語: Did Not Finish at Restroom)」と
呼んでもらおう…と妙なことばかり頭をよぎる。

30分後、転がり出るようにトイレから脱出。1時間かからなかったことは喜ばしい。いや、やっぱり全然良くない。30分も無駄にしてしまった。15kmくらいおくれを取ってしまったことになる。なんとか後れを取り戻したいと思うが、力が入らない。というか、力を入れることに恐怖感がある。当然、スピードなど全く上がらない。25km/hいくかいかないか、といったペースで進む。

東平安名岬から来間島に向かう道のりは、アップダウンがいくつかあった。ダウンはいい。重力作戦が功を奏し、快調に進むことができる。アップはまずい。重力作戦が自らを苦しめる。そして、力を入れて踏み込むことに躊躇いがある。

騙し騙し進んでいたが、目の前にそそり立つ急坂が現れた。今の自分には、まるで壁のように見える。バイクを降りて押してしまいたくなるが、それはCEEPOライダー(仮)として許されない。力を入れずにダンシングでゆっくり登る。汗が噴き出す。10km/hを切りそうなくらいスピードが落ちるが、なんとか坂をクリア。

急坂をクリアした後は、来間島まで比較的順調に進んだ。来間島のすぐ手前、皆愛マンションの前に人が大勢並んで応援してくれている。宮古テレビニュースを観た、と嬉しそうに話しかけてくれたおばちゃんもいた。「テレビで観たけど本当に骨折れてないの?無理しないでね」…大丈夫、おかしいのは腹だけです。ここは踏め!とばかりに、40km/hで皆愛マンションの前を駆け抜ける。

来間島を抜けると、宮古島を1周したことになる。あと半周。暑さと下腹部のダメージのためか、徐々にペースが落ちていく。

145km付近、長くゆるい坂道。1周目ではなんてことなかった坂道が、ものすごくキツく感じる。大きく息を吸い込んで堆肥の香りをダイレクトに入れていまい、激しくえずく。大きくスピードダウン。それからの10kmは長かった。みるみるうちにスピードが落ちていく。アベレージで20km/hもいってなかったと思う。事故で怪我をした首と腰が痛んでくる。

陸上競技場に戻ってきたのは14:20頃。内臓トラブル(ただの下し)にも関わらず、制限時間前に戻ってこられた。しかも、50分も余裕をもって。VENOMのおかげで、ランに入ることができる。

バイク: 6時間27分21秒 (午後2時33分15秒)

第10話「約束のストロングマン」に続く

 - 宮古島トライアスロン2014