宮古島挑戦記 2014 – 第7話「号砲2週間前、最大のピンチ」

   

Traffic accident

第6話「宮古島当選、それなのに…」に戻る

痴漢捕縛騒動以来、毎朝毎晩左足に湿布を貼る日々。

骨は折れていないんだから、宮古島には行ける。だから、ここは慌てずにじっくり治すことだ…と自分に言い聞かせる。「通勤以外動くの禁止」と言われた2週間は、本当に何もしなかった。そして1月が過ぎ、2月になった。

2月に入ると、Onにとって大きな出来事が続けざまに起こった。プロフットレーサー・岩本能史さんが、今期のシューズとしてクラウドレーサーを選んでくれたこと。そして、その直後の東京マラソンEXPO2014での予想以上の大成功。

Tokyo Marathon Expo 2014

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ちょうど1年前の東京マラソンEXPO2013に出展したときは、1小間の小さなブースでチラシを配っていた。「On?知らないなぁ」という声しかなかった。3日間チラシを配り続け、ランナーに声をかけ続け、なんとか10足ちょっと売れたのだった。

今年は2小間に広げ、お客さんは圧倒的に増えた。売り上げも去年の7倍近い。正直、そんなに売れるとは思っていなかった。ただ、何よりも嬉しかったのは、北海道から沖縄まで、全国のOnユーザーが会いに来てくれたこと。みんなと一緒に写真を撮りながら、支えてもらっていることを実感した。

全ての日程を終了した後、Onの大ファンだと言ってくれたある方から頂いたカードを眺めながら、家でひとり祝杯を挙げた。

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・2014年2月23日 Facebook

東京マラソンEXPO2014、終了。おかげさまで、大盛況のままOn日本上陸1周年という節目を終えることができました。

全く無名の状態で上陸した去年のEXPOでは、ひたすらチラシを配って終わりました。1年後の今年は、Onを好きな人や履いてみたいと思ってくれた人が、全国からたくさん集まってくれました。お話をして握手して、幸せな時間でした。

そして、手元には、とあるOnファンの方から頂いたカードが。

「Happy Anniversary in Japan.日本に来てくれてありがとう!」

このカードを肴に、楽しかった3日間のこと、そしてこの1年のことなどを思い出しつつ、久しぶりに一杯飲みたいと思います。

EXPOに来て頂いた方、来れなくても応援して頂いた方、本当にありがとうございました。ただただ、感謝です。2年目、頑張ります。

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東京マラソンEXPO2014が終わり、次の大きなイベントはいよいよ宮古島ストロングマンとなった。

宮古島ではブース出展に加え、自分が選手として出場する。分かっていたことだが、改めて意識すると焦りを感じる。なにしろ、1月から2月にかけて、まともなトレーニングはできていないのだ。ただ、ほとんど動かなかったため、痴漢捕縛騒動で痛めた足は随分良くなっていた。これからやればいいと気持ちを切り替え、ランニングを再開した。

3月になった。大会が近付いてきている。仕事から帰ってきてからラン、スイム。週末は空手、ラン、バイク。コツコツトレーニングをしているのだが、宮古島を走るイメージが湧きづらい。そこで、色々な方の宮古島体験記を読むようになった。

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・2014年3月17日 Facebook

ここ数日、仕事の帰りに宮古島の体験記を読むようになった。どの体験記も参考になるが、やはり制限時間ギリギリで帰ってきた人たちの文章が響く。

あまりの熱い内容に、電車やバスの中で「おふぅっ…」と嗚咽しそうになるのも一度や二度ではない。

「すげぇよお前…俺もやるよ…」と単純に勇気をもらいつつ、今日もちょびっと走る。

バイク60km+ラン6kmの翌日だが、脚は大丈夫。むしろ、そのくらいでダメならもうアウトだ。クラウドを履いて、キロ6分目標でゆっくり走る。綺麗な月を眺めつつ、7.5kmを5’45 min/km。

Full Moon

「本当にやれるのかな?」

体験記の人たちも、同じようなことを思って練習していたのだろうか。

宮古島まであと34日。
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体験記は非常に参考になる。具体的にどんなことに注意すればいいのか、どんなときに辛いのか、そういったことを追体験できる。そして、今さらながら、スイム・バイク・ランそれぞれの制限時間が設定されていることも知った。それまでは、「スタートしてから15時間以内にゴールすればいい」とだけ思っていたのだ。

あれ…?でも待てよ。よく考えたらおかしい。スタート時間が午前7時、ゴール時間が午後8時半…。

あれ?

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・2014年3月18日 Facebook

昼飯中、大変なことに気がついた。

宮古島の制限時間は、15時間じゃなかった。13時間30分。

ヤバすぎる。そしてバカすぎる。
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嘘だろ?なんでそんな勘違いしてたんだ?

突如、制限時間が1時間半も短くなってしまった。頭真っ白。真っ先に「絶対、無理」と思ってしまった。そんなとき、Facebookのコメント欄には仲間からの励ましの声。おかげで、「無理とか言ってる場合じゃない」と思い直した。

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・2014年3月18日 Facebook

宮古島の制限時間が、自分の思っていたのより1時間半短かった。それに気付いたときの衝撃。「絶対、無理」と落ち込んだ。

豆腐のようなメンタルのせいで、小一時間ほど衝撃が続いたが、みんなのアドバイスで現実を見ることができた。

まずは、レースプランの見直し。一番怖いのはバイク。平均25km/hで行かないと間に合わない。風に滅法弱い俺。でも、「宮古島も湘南も同じ海風」という言葉をかけてもらって、少し落ち着いた。

次に心配なのはラン。155kmのバイクの後のフルマラソンなど、よくよく考えたら若干おかしいとしか思えない。周りの人が凄すぎて、少しマヒしていたようだ。ともかく、5時間で走ることを目標とした。平均キロ7分。

先程、そのペースをひたすら守る練習をしてきた。今夜ほど集中できたことはなかった気がする。スピードが出そうになっても我慢。一歩一歩確かめるように20km、平均6’56 min/km。同じことをもう一周できるかと考えると自信がないが、できることを一つずつやろう。

宮古島まであと33日。
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3月21日から23日にかけての3連休は、自分なりに頑張った。ところが、3日間の合計距離を測ってみたら、なんと宮古島本番の1日分にも満たなかった。

落ち込むのではなく、むしろ「ストロングマンってすげぇ!」と興奮。ストロングマンになれたとき、俺はどうなっているのだろうか。

Yuigahama_sunset

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・2014年3月23日 Facebook

三連休のトレーニング終了。3日間のトレーニング量は…

スイム: 1,500m
バイク: 136km
ラン: 28.5km

それなりに頑張ったつもりだったが、この3日間のトレーニング量は、宮古島本番の1日分に満たなかった。宮古島ストロングマンの凄みたるや…。

そして、その宮古島から「ストロングマンテキスト」が届いた。読み進めていくうちに、緊張感がどんどん高まっていった。去年の渡良瀬遊水地のデビュー戦、スイムスタート直前よりもドキドキする。手足が少し震えた。

Strongmantext 2014

Onのマーケティングの仕事を始め、同時に走り始めて1年3ヶ月。引き返せないところまで来てしまった感がある。怖いけれど、興奮が抑えられない。

宮古島まであと4週間。
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大会まで1ヶ月を切った。ほぼ毎日走る日々。音楽を聴きながら走ってテンションを上げ、「完走できなかったらどうしよう」という不安を吹き飛ばす。「キセキ」(Greeeen)、「全力少年」(スキマスイッチ)、「君という名の翼」(コブクロ)、「希望の轍」(サザンオールスターズ)、「栄光の架け橋」(ゆず)など、ポジティブな曲ばかり聴くようになった。

どうしても不安になってしまいそうなときは、自分がフィニッシュラインに到達したときのイメージを強く持つようにした。笑顔でフィニッシュテープを頭上に掲げる。夜中に走りながら、頭上に拳を何度も突き上げる不審者がそこにいた。

4月、ついに大会の月になった。本来であれば調整に入る時期なのかも知れないが、俺の場合はそうも言っていられない。絶対的にトレーニング量が足りない。直前までやらなければ…。

4月6日、バイク100kmのロングライド。鎌倉→茅ヶ崎→小田原→箱根まで走り、片道50km。宮古島の目標ペース、平均25km/hは達成している。箱根から逆に鎌倉に向かう。調子はいい。少し踏み込んでみると、平均28km/hくらい出しても大丈夫そうだ。これなら本番も大丈夫だろう。少しホッとした気持ちで、鎌倉の若宮大路を鶴岡八幡宮に向かって走る。週末だからか、ものすごく混んでいる。

突然、雨が降ってきた。道も混んでいるし、雨も降り出したし、もうトレーニングにはならない。スピードを落とし、のんびり家に帰ろうと思ったその時。右前方を走っていたワンボックスカーの後部がチカっと光った。アッと思う間もなく、突然左折してきた。

「ドンッ」と車にぶつかり、身体が宙を飛ぶ。一回転して背中から落ちる。

「ヤバい」と思った瞬間、左腕で受け身をとった。左腕の中から「グチャッ」と嫌な音が響く。

頭をぶつけないように首を持ち上げたが、落下の勢いの方が強かった。ヘルメットの後頭部が「カンッ!」と甲高い音を立てた。

気が付くと、顔に雨の冷たさを感じた。目を開けると周りに5人くらいの人が立っている。「大丈夫ですか?」と誰かが言っている。別の人の肩を貸してもらい、路肩から屋根のある駐車場の下に移動し、座り込んだ。

まず思ったことは「バイクは?」だった。周りを見回そうとしたが、首が右に回らない。立ち上がろうとしたが、右ふくらはぎが痙攣して立つことができない。そばにあるものを掴んで立とうとしたが、受け身をとった左腕に力が入らない。立つことを諦めた。

バイクは近くにあった。見た目はそんなに酷くない。ただ、ハンドルが大きく曲がっている。「これじゃレースに出られない…」とぼんやり思っていると、急に身体が冷えてきた。歯の根が合わなくなり、ガチガチと震える。そんな寒くないはずなのに。ちょうどそのとき、SILVERBACKSの前島さんからメッセージが入った。

「週末のトレーニング、頑張ってますか~?」

自分なりに頑張っていたけど、もうダメかも知れない。思わず弱気になり、前島さんに「事故ってしまいました」と返事をする。前島さんはすぐに行くと言ってくれたが、ちょうど現場検証の警察官が呼んだらしき救急車が来た。そんな大げさな、と思ったがまともに動けない。救急隊員の肩を借りながら救急車に乗り込んだ。

サイレンの鳴る救急車の中で、「宮古島どうしよう…」と呆然としていると、救急隊員がしきりに俺の肩を触っている。そこは別に痛くない。不思議に思って救急隊員を見た。

「あっ、すみません。ジャケットの肩パット、取らせていただいてもよろしいでしょうか?」

肩パット?オートバイのジャケットと勘違いしてないか?

「これ…自前です」

「( ̄◇ ̄;) はっ!そ、それは大変失礼いたしました!!」

落ちこみかけていたのだが、救急隊員の慌てぶりを見て思わず噴き出してしまった。おかげで、悩む間もなく近所の病院に到着。車いすに乗せられて、そのまま診察室へ。先生と対面したと思ったら、レントゲン室に直行。

「う~ん…おかしいなぁ…」

「先生、折れてますか?おかしいって何が…?」

「いや、車に撥ね飛ばされて地面に落ちたんだよね?それなのにどこも折れてない…あなた、何かやってた?」

「空手を少し…」

「あっ、きっとそれだね。鎧が守ってくれた感じだね」

肩パットだの鎧だの、どいつもこいつも…。

「4月20日にトライアスロンの大会があるんです。出てもいいですか?」

「折れてないって言っても、全身打撲だよ?2週間もすれば動けるようになるとは思うけど…」

今日は4月6日。2週間後はちょうどレース日だ。

「2週間ですか!ちょうど間に合いますね!」

「動けるようになるって、日常生活が大丈夫になるって意味だよ。無茶だよ。トライアスロンでしょ?」

「仕事なんです。どうしても出ないといけないんです」

「あなた、空手家じゃなかった?プロトライアスリートなの?」

肩パット、鎧人間、空手家、トライアスリート…なんだかややこしくなってきた。説明するのも面倒なので、「ともかく出ないといけない」と強調した。先生は、「賛成はできないけど、とりあえず痛み止めをたくさん出しておく」と言ってくれた。「レース中、どうしても痛くて仕方ないときは飲んでいい」と。

タクシーで家に帰ると、また「バイクどうしよう」と心配になった。新しいバイクを買うにしても、納車まで時間がない。仲間に頼るしかないと思った。

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・2014年4月6日 Facebook

参りました。バイク練習中、自動車に撥ねられました。ウィンカー出した瞬間に左折した車に巻き込まれ、バイクは壊れてしまいました。壊れたバイクは、鎌倉警察署に証拠物件(?) として預かられました。

そして僕はそのまま人生初の救急車。幸い骨は折れていないですが、見事な全身打撲。まともに歩くこともできず。先ほど、病院から戻りました。

Traffic accident

さて…困ったのは何と言ってもバイク。どなたか、宮古島用に完成車をお貸し頂けないでしょうか…?
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驚いたことに、「○○のサイズ△なら貸せる」と、仲間から続々とコメントが集まってきた。なんてありがたいんだろう。そして、Zootアスリートの今村さんやOnアスリートの室谷さんからすぐに電話を頂いた。室谷さんに、宮古島を絶対に完走しないといけない理由を説明しているうち、思わず泣けてしまった。やっぱり諦めたくない。

室谷さんとの電話を切ると、CEEPOの田中社長からコメントが付いていた。

「試乗車でよろしければお貸しします」

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・2014年4月7日 Facebook

大変ご心配をおかけしました。コメント、メッセージ、そしてお電話、ありがとうございました。

今日は会社を休み、また病院に来ています。診断書をもらってから、警察署で被害者として事情聴取を受ける予定です。

宮古島に出場するためのバイクですが、CEEPOの田中社長のご厚意により、“VENOM”の試乗車を現地でお借りできることになりました。皆様からの温かいお心遣いに感謝しています。

大会まで間もないですが、まずは身体を回復させて、必ずやスタートラインに立ちたいと思います。

宮古島まであと13日。
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東京マラソンEXPOでも、制限時間勘違い騒動のときも、そして今回のバイク事故でも。いつも仲間が励ましてくれて、支えてくれた。みんなのおかげで、宮古島に出ることができる。

身体は何が何でも回復させる。そしてスタートラインに立つ。やることがハッキリと見えたとき、不安はきれいに消えていた。

絶対に完走して、ストロングマンになる。

第8話「宮古島、上陸」に続く

 - 宮古島トライアスロン2014