宮古島挑戦記 2014 – 第5話「オリヴィエとの出会い」

   

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「鎌倉山の変」は、心に深い傷を残した。ランニングで遠出ができなくなったのだ。ちょっと走るだけで、なんだか差し込んでくる気がする。「視界の端にトイレを捉えておく術」を編み出したのは、この頃であった。

しかし、気持ちを切り替えよう。遠出ができないなら、1回5km程度の距離をたくさん走ればいい。下腹部にダイレクトに衝撃が加わらないバイクもいい。視界の端に常にトイレがあるジムに行くのは特にいい。安心感が違う。結果的に、クロストレーニングの習慣がついてきた。そんな理由でクロストレーニングを導入する人は他にいるのだろうか。

8月のお盆休みには、「ひとり夏合宿」を慣行。目的は、9月15日に開催される「第18回レイクハマナ・トライアスロン2013 in 村櫛大会」に向けてのレベルアップ。渡良瀬のデビュー戦のみで、来年のロングディスタンスに臨むのは、いくらなんでも不安すぎる。トライアスロンにもう少し慣れておこうという趣旨で、もう1戦しておこうと決めたのだ。

それなりに充実したお盆休みが明け、すぐに大きな仕事が待っていた。「アイアンマン・ジャパン北海道」へのOnブース出展、そして共同創業者オリヴィエ・ベルンハルドの来日。Onの日本市場立ち上げから半年、日本の状況を見に来るというわけだ。

やや緊張しながら向かった洞爺湖。そこで、予想外に嬉しいことがあった。宮古島や横浜トライアスロン、そしてセントレアで知り合った人たちが、Onのブースに集まってくれたのだ。オリヴィエを囲むように、Onアスリートたちによる記念撮影も行った。これにはオリヴィエも大喜びだった。

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オリヴィエとはすぐに仲良くなった。On共同創業者、しかも元トッププロということで少し緊張していたのだが、彼の気さくな人柄はそんな緊張を取り払ってくれた。Onアスリートたちとの写真撮影会の夜、そんなオリヴィエと宿の露天風呂に一緒に入りにいった。

「スイムスーツは着ないでいいの?」

「裸でいいんだよ。最初に頭と身体を洗ってから、バスタブに入るんだ」

洞爺湖を眺めながらの露天風呂。オリヴィエと俺しかいない露天風呂で、ゆっくりと寛ぐ。

「みんなに感謝だね」

オリヴィエはニコリと微笑んだ。

「たくさんのアスリートがOnを履いてくれて」

風呂から立ち上がるオリヴィエ。ちなみに、当然裸だ。

「みんなに楽しく走ってもらいたいと思って、Onを作ったんだ。だから、日本にOnが広まってきているとわかって、すごく嬉しいよ。ヒロキ、ありがとう」

グッと込み上げるものを感じた。なんと言っていいか分からなかったので、俺も立ち上がり、しっかりと握手をした。ただし、ハタから見れば裸同士の男が露天風呂で握手をしている図。人に見られなくて良かった。

レース当日はあいにくの空模様だったが、1日オリヴィエと一緒に応援して回った。

バイクコースの雨で滑りやすい場所で、応援の人が「滑りまーす!ゆっくり、ゆっくり!」と声を出しているのを聞いたオリヴィエは、「ヒロキ、あれはなんて意味?」としきりに聞いてくる。説明すると納得の表情を浮かべ、すかさず「スベリマース!ユクーリ、ユクーリ!」と満面の笑みで声をかけている。それを聞いた周りの人も笑顔。オリヴィエの周りは、みんな笑顔になっているような気がする。

トップ選手たちが戻ってくる頃合いを見計らって、フィニッシュラインに戻る。オリヴィエはまだ「スベリマース」と言い足りなそうな感じだったが。

IM Japan 2013_Olivier

8月とは思えないほど冷たい雨風の中、アスリートたちが続々とフィニッシュラインに飛び込んでくる。その中には、セントレアで知り合ったOnアスリート、室谷浩二選手の姿もあった。

IM Japan 2013_Muroya

クラウドレーサーを手に写真を撮らせてくれた直後、倒れ込むように救護室に入っていった室谷さん。最後の一滴まで絞り出した姿に大きな感動をもらった。そして、それぞれの想いを胸にフィニッシュするアスリートたち。俺はフィニッシュラインの向こう側で、ほぼ全員とハイタッチをしたり、握手をしたりした。苦しみの中で笑顔を浮かべてくれるアスリートたちを見ていると、宮古島での決意がさらに固まっていくのを感じた。

「Onを履いてアイアンマンになるんだ、いつか」

思い切り力を込めてそう言った俺の横で、オリヴィエは微笑みながら言ってくれた。

「ヒロキならきっとやれる」

第6話「宮古島当選、それなのに…」に続く

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