宮古島挑戦記 2014 – 第4話「鎌倉山の変」

      2016/05/17

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第3話「はじめてのオリンピック・ディスタンス」に戻る

渡良瀬の初オリンピック・ディスタンス完走後、仕事もトレーニングも充実しつつあった。

スイス・チューリッヒのOn本社への訪問、アイアンマン70.3 セントレア知多・常滑ジャパンでの新たな出会い。特に、Triathlon Team BigLakeの「こうたん」こと、室谷浩二さんとセントレアで出会えたことは、大きな転機の一つになった。

仕事の合間を縫ってのトレーニングも、自分なりにペースが掴めてきた。トレーニング量は全然足りないが、コツコツ走るようになったのは大きな変化だ。

来年の宮古島に向けて、スイムの特訓も行った。湖(沼?)の大会だった渡良瀬ですら、かなり苦戦したのだ。波と潮の流れがある海はどれほど大変なのか…。想像するだけでおっかない。

そんな海に対する漠然とした恐怖感を克服するため、岩佐さん率いる「GRADFIVE」の海練に参加させてもらったり、プールで試行錯誤したりしつつ、準備を重ねた。

そして、7月14日、「第1回葉山オープンウォータースイム大会」3000mの部に出場。

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・2013年7月15日 Facebook

今日は、葉山のオープンウォータースイム大会に参加した。3,000mの部、宮古島ストロングマンと同じ距離を選んだ。

朝4:30に起きて準備。納豆巻きを食べて燃料補給。こんなに必要かというくらい水を飲んでおく。6:00に出発、6:30に会場入り。

海のコンディションはよく分からないけど、波は高くなくて泳ぎやすいように見える。水をちびちび飲みながら待機。そして、8:00に開会式。「日頃お疲れのところ、さらに振り絞って下さい」とナイスな激励。

腋の下と首にワセリンを塗り、ウェットを着て、8:40スタート地点に向かう。5月の渡良瀬トライアスロンでは、スタート地点のど真ん中に陣取ってしまい、バトルに巻き込まれた。叩かれ蹴られ、ペースが乱れて呼吸も乱れた。「リタイア」の文字が頭をよぎったのは、そんなスイムスタート直後だった。

今回は、スタート地点の端の方でスタンバイ。そして9:06、ホイッスルが鳴った。海に向かって走っていく人たちを尻目に、のんびり歩いて海に入る。足がつかなくなるまで歩き、おもむろにスイムスタート。

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GRADFIVEの練習会で教わったことや渡良瀬の失敗を思い出しながら、まずはゆっくり進む。水中でゆっくり息を吐いて、ヘッドアップで方向を確認しながら息を吸う。最初は2ストロークに1回息継ぎ。徐々に身体が慣れてきたら、いつもの通り4ストロークに1回。

突然視界が塞がれ、腕に何か絡まってきた。ストロークどころじゃなくなり、腕を振って振りほどいた。なんと海藻の塊。そして、次から次へと同じような塊がぶつかってきた。最初は驚いたが、なるべく落ち着いて捌く。

他の参加者とのバトルはほとんどないものの、それでもたまにぶつかる。渡良瀬と違って周りを見ることができたので、飛んでくる腕を優しく外受け。空手がはじめて役に立った。

バトルを回避し、方向を見失わず、ゆっくり落ち着いて泳げている。問題なく1周目1.5kmを終了。手元のTIMEXによれば38分。遅いけど、渡良瀬より4分早い。一度浜に上がってチェックポイントを通過、給水ポイントで水をしっかり飲んでおく。

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そして2周目。引き続き自分のペースを守る。ただ、海のうねりが強くなっているように感じた。息継ぎした途端、いきなり身体が水から離れたような感覚。うねりの頂点からジャンプ?そんなことあるの?

まさかのジャンプから着水して、方向を完全に見失った。周りが全て海のような。でもこれは先週経験した。平泳ぎに切り替えて周りを見る。なんとか方向を確認できたので、またクロールに戻す。慌てず落ち着いて…。

最後のブイを折り返して残り約500m。体力的にはまだ余裕がある。少しスパートしてみようと思い、キックの回数を倍に増やしてみた。スーッと前に進める。土壇場で何か掴んだ気がする。前にいる人たちを何人か抜き、ゴール。TIMEXによれば約37分。合計約1時間15分。

海から上がったとき、身体は重たかったが、動けない感じではなかった。それでも、家に戻ったらいつの間にか寝てしまっていた。2時間ほど寝た後、試しにラン。5’45 min/kmで4.5km。意外と動けたが、汗が尋常じゃない。頭が少し痛くなったので、脱水手前かと思い、またひたすら水を飲んだ。

ともかく、第1回葉山オープンウォータースイム大会、3,000m (ウェットあり) 無事クリア!一歩、アイアンマンに近づけたかな?
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オリンピック・ディスタンスに続いて、オープンウォータースイム。今までできなかったことが、次々とできるようになっていく。「やってみれば、きっとなんだってできる」と本気で信じ始めていた。ロングのトライアスロンへの挑戦が、「夢物語」から「実現すべき目標」へと変化していった。

夏の暑さ真っ盛りな時期だが、モチベーションは落ちない。食欲も一切落ちない。鎌倉のトレイルに入ってみたり、いつもと違うコースを走ったり、日々のランニングに変化をつけて楽しむことも覚えた。

そんなある金曜日。仕事で帰りが遅くなり、ラーメンを食べてから帰宅したのだが、どうしても走りたくなり、夜11時過ぎに外に出た。次の日は休みなので、深夜に長く走ってみるのも面白いかと思い、鶴岡八幡宮から由比ヶ浜に向かうコースへと足を伸ばす。深夜なのでさほど暑くなく、快適に走れていた。

予定通りのペースで順調に由比ヶ浜に到着。夜の海を眺めつつ、江ノ島の方向に進む。夜の海風が涼しい。熱くなった身体が冷やされていい感じだ。

…というかちょっと冷えすぎる。ペース上げて身体をあっためないと。キロ5分半くらいに上げる。汗が噴き出る。なのに、身体が冷える。主に、腹が。

「…きゅる…ぐる…」

これは…ヤバいやつだ。汗冷えか?それともラーメンか?

いずれにせよ、長年の経験により、のっぴきならない状況だと察した俺。慌てて周囲を見回す。

「こ、コンビニは…ファミレスとか…」

何にもない。灯りすら見えない。徐々に走るスピードが遅くなる。

これでもコッチの方面では、俺は百戦錬磨。「もうダメかも」と思ったことは何度もあった。それでも、これまで数限りない挑戦者を退けてきたのだ。そう簡単に折れるメンタルではないのだ。この方面だけは。

「ゴゴゴゴゴ…」

だがこれは…ダメなやつだ!!

圧倒的な差し込みに、完全に足が止まってしまった。膝が笑っている。汗が冷たい。全身が震える。この段階で悟った。「もうダメかも」なんじゃない。もう終わってる。

「『やってみれば、きっとなんだってできる』と言ったのは誰だ?もう諦めるのか?」

内なる声に叱咤されたが、完全に心が折れている俺には届かない。暗闇の中、誰もいない砂浜に向かってズルズルと進む。だって、もう海は怖くないのだから。

そして男は、真っ黒な波打ち際に消えていったのだった…。

第5話「オリヴィエとの出会い」に続く

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