けんいちうじと雪隠斎の話。

      2017/01/31

雪隠斎の鉄人鍛錬記

前回「心を決めたら見えたもの」に戻る

 

先ほど、雑誌Running Style吉田健一編集長との打ち合わせを終えた。

ただ、彼のことを「吉田編集長」と呼んではいない。「吉田さん」もしくは「けんいちうじ」と呼んでいる。けんいちうじとは、ここ数日書いていた回想録、あの当時からの付き合いだ。

もはやお馴染み、自分史に残る必殺のネガティブ名言駒田君、Onやめることになったからを食らって、キャスパーに渾身のプレゼンを行い、あとは運を天とスイス本社に任せるしかなくなった2014年10月末、俺はけんいちうじと会った。

普段あまり酒を飲まない方なのだが、このときは酒が大いに進んだ。「駒田さん、今日は強いの飲んじゃいましょうよ!」と言われ、「おっしゃ、カルアミルク!」と応じ、馬鹿にされながらもダンディズム的にグイグイ飲んだものだ。

けんいちうじ
※ 上: 強い酒を飲むダンディズムなけんいちうじ。

 

このとき、Onの日本での行く末はまだ全く不透明だったため、いかに相手がけんいちうじとは言え、Onについて深くは語らなかったはずだ。ただ、話は予想外の方向に進んだ。

 

「駒田さん、コラム書きませんか?うちで!」

 

プロの編集者からコラムを書かないか、と言われ俺はたじろいだ。

子供の頃、母親から「私は博紀の作文が好きなのよね〜。洒脱な感じがいいわよ」と言ってもらったことは未だに記憶に残っていたが、それはあくまで小学生レベルの話だ。

 

「おもしろそうですね〜。カルアミルクおかわり!」

 

などと酔ったふりをして、俺はその場ではお茶を濁した。本当はすごくやってみたかったのに。

ダンディズム
※ 上: 同じく強い酒を飲むハマのダンディズム。

 

カルアミルクによる軽い二日酔いに悩まされた2日後、俺はOnアスリート・鎌田和明さんの結婚式二次会に参加させてもらった。ブルトレメンバーも多く参加しており、司会進行役は遠藤さんであった。

仲間たちに祝福され、前途洋々な人生を迎える鎌田さんの姿があまりにも眩しかった。心の底から祝福しつつ、少し羨ましいという気持ちが心の奥をチクリと刺した。

カズ結婚式

 

(羨ましがってんじゃねぇ、この野郎!)

 

横浜・馬車道で開催された二次会から鎌倉に戻り、俺は自らを叱咤した。ダークサイドならぬ五反田駅ホームから転がり堕ちる寸前までいったこの暗黒卿。生きているだけでめっけものではないか。

スイスからの連絡を待つしかなくなった俺は、手慰みにガンプラ製作に打ち込み、ますますダークサイドへの道を邁進していった。

Zaku_1

 

(素晴らしい。見よ、この征遠鎮をキメたザクを…)

 

第1作目のザクが思いのほか満足できる仕上がりだったことで、俺はすっかり気を良くしてしまった。そのまま流れるように2作目、3作目と製作は続いた。もう止まらない。

そして運命の作品「グフカスタム」が完成したとき、俺はどうしても衝動を抑えきれなくなったのだ。「こいつを最高のシチュエーションで撮ってみたい」と。

 

(コバさん、見えるぞ。俺には今、何がしたいかハッキリと見える…)

 

グフカスタムをタオルでグルグル巻きにし、トレラン用ザックに収納した俺は、ホームコースである六国見山を駆け上がった。しかし、そこにあったのは俺が最も見たくない光景。

 

(…先客か!)

 

そこには、3歳ほどの女の子と年若い父親がいた。散歩がてら山を登り、一緒に夕日を見ようというのだろう。「綺麗だね〜」と微笑みあう親子の姿は、涙が出るほど微笑ましい。俺も数年前まではああだった。望んでももう手に入らない風景がそこにあった。

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(…早く、早くそこをどいてくれ)

 

娘と過ごした年月に一瞬強烈な感傷を覚えたが、それが俺をどこにも連れて行ってくれないのは、この数年で痛いほど学んでいた。もうそこに囚われてはいられない。だから、俺はその親子に背を向け、ベンチの上で鼻水をすすりながらグフカスタムを組み立て直す。

 

「さあ、おうちに帰ろうか!ママが待ってるよ〜」

 

美しい夕日が沈み、周囲は徐々に暗くなってゆく。日が沈んだから家に帰ろう、という親子の姿をなるべく見ないようにしながら、俺はグフカスタムを手すりの上に置いた。下からあおるように、心の闇をえぐるような角度でiPhoneのシャッターを切っていく。

 

(これだ…!)

 

そして、想像していたのと全く同じ構図で一枚の写真を撮ることに成功した。沈みゆく夕日を背にした哀愁のグフカスタム。おまえは俺だ。

 

gouf-custom

 

「勝ったぞ!」とノリス・パッカード的に心の奥で叫びつつ、俺は部屋に戻ってきた。しかし、本当に俺は勝ったのだろうか。良くてギリギリドロー、あるいは負け試合ではなかったか。

いずれにせよ、俺は気がついてしまった。クリスマスに娘と過ごした記憶がまだ俺の中で燻っていることに。

 

(…やるか、今年も。荒行を)

 

一人暮らしになってから恒例となった精神鍛錬。2012年は「ひとり鍋の行」でDNF、2013年も同じく「ひとりすき焼きの行」でギリギリドロー。しかし、今年2014年の俺は一味違うはずだ。だから、今年はかねて考案の荒行中の荒行を敢行する。

2014年12月24日。仕事を終えた俺は、大船駅で小さめのホールケーキを買い、崩れないようにタクシーに乗った。

運転手さんに「お父さんは大変ですね〜」と話しかけられ、「ええそうですね〜」と答えた時点で、なかなかの打撃を被る。キツいキツいと聞いてはいたが、ここまでの代物とは想像を超えている。

帰宅してケーキを冷蔵庫に入れ、心を落ち着かせるために5km走り、身を清める。もはやルーティーンと化した動き。何の精神の乱れもない。問題ない。

 

(いよいよか…)

 

部屋に戻ると、ふと視線を感じた。グフカスタムとザク。こいつらにも付き合ってもらおう。

ザクをテーブルに正座させ、グフカスタムをケーキの向こうに立たせ、ヒートサーベルを構えさせる。そして、おもむろにロウソクに火を灯し、部屋の電気を消す。

真っ暗な部屋の中で、唯一の灯りとなったロウソクの火。グフカスタムとザクのモノアイが、ロウソクの灯りを反射して怪しく光る。

雰囲気十分だ。歌おう。

 

 

。。

 

。。。

 

♪ サーイレンナイ。。。

 

♪ ホーリーナイ。。。

 

 

ふざけんな、しんでしまうわ。

 

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そんな息も絶え絶えなクリスマスを乗り切った頃、けんいちうじからメールがあった。

 

 

「駒田さん、Facebookで「ひとりホールケーキの行」を見ました。

 

断言します。金が取れる文章です。

 

編集会議でも決まりました。これはもう決定事項です。

 

Running Styleにコラム書いてください」

 

 

人生とは不思議だ。何がどうなるか全く分からない。とりあえず、俺はその話を謹んでお受けした。面白そうだと思うなら、やってしまえばいいじゃないか。

 

あれから2年。「雪隠斎 (せっちんさい)」というペンネームを名乗り、俺はまだ Running Styleにコラムを連載させてもらっている。3回くらいであっさり打ち切りになるかと思ったが、これも思いのほか長く続いている。次で25回目だ。

その間、けんいちうじはアイアンマン70.3を完走するトライアスリートとなり、俺はアイアンマンとなった。

雪隠斎の鉄人鍛錬記

 

 

「いつか一緒に宮古島とアイアンマンを完走しましょうね」

 

「は、はははい。。変な汗がとまらないですが。。。」

 

 

あの時期の俺を面白がってくれたけんいちうじは、実は俺の恩人のひとりだ。その彼と一緒のレースを完走できたら、きっと最高だろう。

いくぞ、けんいちうじ。これはもう決定事項だ。

 

次回「風邪こじらせFF廃人」に続く

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