迷いと怯え、そして最後の日。

      2017/10/02

実家_1

前回「不吉な空気、はがれた手のひら」に戻る

 

2012年7月9日(月)

翌週の月曜日、通勤電車の中でいつも読んでいるマーケティングの本を開かず、代わりにiPhoneを取り出し、「副業」で検索をしてみた。

 

もっと稼げていたら。もっと金があれば。

 

土曜日の夜、シャワーを浴びているときに突き上げてきた想い。でも、どうしたらいいか分からない。何か、何でもいいからヒントが欲しかった。

「副業」の検索結果は、今の社会の暗い状況を浮き彫りにしていた。年収400万円時代、社会保障制度の行き詰まり、増税……およそポジティブな要素が見当たらない状況を少しでも良くするために、サラリーマンの6人に1人が副業に手をつけるという。

でも、そういったサラリーマンの大部分が始める副業は何かと言えば、コンビニ店員、ファミレスのホール、警備員、交通量調査員、テープ起こし、治験モニター…本業で疲れ果てた人たちが身体に鞭打って、わずかに残された時間と体力を切り売りしているのだ。そんなことが長く続くとは思えない。でも生活のためにはやるしかない。そんな悲鳴にも似た声が聞こえてくるような気がした。

 

(これじゃあダメだ)

 

直感的に思った。念のために計算してみる。

 

時給1,000円 × 8時間 × 週2日 × 4週間

= 64,000円

 

本業をもった家庭のあるサラリーマンが割ける時間は、実際にはこれより少ないかも知れない。やはりダメだ。こんな金額が増えたくらいであの場所は守れない。それに、いつかきっと身体が壊れる。幸せは遠ざかる。そんなことを考えていたら、職場に着いてしまった。

職場に着いても仕事に集中はできなかった。何も分からない。一体俺はどうしたら。

そうして何も行動を起こさず、ただ怯えているうちに、その日は来た。

 

2012年8月15日(木)

全て運び出した。ガランとした家には、もう不吉な空気は漂っていない。もうただの空き家だ。

実家_1

 

全部の部屋を回って確認していく。どの部屋でも、カーテンの無い窓から真夏の太陽の光が差し込んでくる。明るい。もう廃墟の暗さはない。せめてもの救いだ。

実家_2

 

最後の思い出として、各部屋の写真を撮っていく。20年以上過ごした家の最後の姿を、いつかまた眺めたくなるその日のために。でも、そんな日は本当に来るのだろうか。

実家_3

 

次回「道が少し拓けたとき」に続く

※ この家は、今は別の人に使ってもらっているようです。数年前、おそるおそる外から眺めてみたら、暖かい灯りがこぼれてきていました。嬉しかったことを覚えています。
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