アイアンマン・ケアンズ挑戦記 2017 – 第13話「痛みは一瞬、記憶は一生」

      2017/07/04

IM Cairns 2017 bike_3

第12話「最速不動産王、無言の激励」に戻る

 

バイク、約70km地点。パームコーブ手前で折り返す。

遠藤さんの勇姿を見て元気付けられはしたが、腰の痛みは収まる様子がない。それなのに、これからまた同じ道をポートダグラスまで向かうわけだ。まるで、「ふりだしに戻る」といった感覚に陥る。

折り返して数キロ進んだところにあるスペシャルニーズで、バイクを置いて立ち止まる。腰のストレッチをして、腹をグリグリ指で押す。腹筋と腸腰筋が少しでも緩めば、腰痛に効くはずだ。そして、万が一のときのために持っておいたロキソニンを、メダリストのエナジージェルと胃薬と一緒に飲む。

去年はここで吐き気が出た。今は、腰の痛みだけだ。吐き気はない。大丈夫のはずだ。そう思って走り出すが、数キロもしないうちに、また痛みが強くなってきた。

 

(痛い…苦しい……)

 

もう考えられることは、「腰が痛い」という一点だけ。そして、徐々に心が折れていく。

 

今後のために「勇気ある決断」もいいんじゃないか…

でも、みんなにはなんて言い訳しようか…

いっそ、パンクでもしてくれないかな…

 

そんなことを考えながら、下を向きながら惰性で走る。次から次へと抜かれていく。なんで俺はこんなことをやってるんだ。こんなこと、ただ痛いだけだ。

半分諦めつつ、もうお馴染みの動きになった謎ダンシングをやろうとサドルから腰を上げる。すると、スッと俺を抜いた老紳士の背中が目に入った。彼の背中にはこう書いてあった。

 

“The pain won’t last forever.

But the memories will.”

 

文字が老紳士の背中から俺の目に飛び込んできたように感じた。

痛みは永遠には続かない。でも、記憶はずっと残る。痛みは一瞬、記憶は一生。

もし今やめてしまったら、この痛みからは逃れられる。でも、そのやめた記憶は一生残る。誰にどんな言い訳をしたところで、その後悔からはきっと逃げられない。そんなことをしたら、もうロングのトライアスロンに出ようなんて思えなくなるかも知れない。

ボーッと老紳士の背中を見続ける。遠藤さんの無言の激励、しげちゃんとの約束、まどかの応援ボードが、頭の中をぐるぐる回る。

IM Cairns 2017_最速不動産王_2

しげちゃんDNF

Hiroki the Ironman

 

ふと、スイス出張前に考えたことも思い出した。あのとき、俺はこう結論付けていた。

 

そこにある物事は変わらないが、それに対してどう反応するかは俺次第。

心持ちひとつで苦行にも楽しみにもできるはずだ。

 

痛いのは変わらない。でも、それに対してどう反応するかは俺次第。痛みはどうしようもないが、苦しみだけに目を向けてやめるかどうかは俺次第。

そんなことは分かっていたはずなのに、別の試練が顔を出してくると、また目が曇る。つくづく弱い。遅いのと弱いのは違う。

 

(まずは完走しよう。次は強くなろう)

 

俺は老紳士を追いかけるようにバイクを漕ぎ出した。その途中、撮影ポイントで渾身のバキューンを放つ。

痛いのは変わらないけど、少しだけ楽しくなってきた。

IM Cairns 2017 bike_3

 

第14話「旅のようなレース」に続く

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