アイアンマン・ケアンズ挑戦記 2016 – 第1話「アイアンマンコール」

      2016/08/10

Ironman Hawaii 2016 Finish Line

“Swim 2.4 miles, bike 112, run 26.2miles, brag for the rest of your life.”
(3.8km泳ぎ、180km漕ぎ、42.2km走れ。そして一生自慢しろ) – John Collins

トライアスロンなんて特に興味なかった。仕事でたまたま来ただけだ。だけどこれは…。

Ironman Hawaii 2008 Official Guide

2008年、TIMEXの日本限定新商品「アイアンマン・トライアスロン 8-lap 復刻版」が発売となった。

世界で最初に発売されたデジタルスポーツウォッチの復刻版。世界で唯一、「IRONMAN」のロゴを商品名に冠することのできる腕時計。トライアスロンの黎明期を知るアスリートにとって、憧れの腕時計。

TIMEX Ironman Triathlon 8-lap Reproduction

「そうなんだ。すごいんだな」

腕時計に特に興味がない状態で入社した俺は、その商品のストーリーを先輩から教えてもらっても、「ふ〜ん」といった感じだった。まずもって、「トライアスロン」や「アイアンマン」というものを知らない。だが、これから売ろうとする商品のストーリーを知らないのでは話にならない。まず、アイアンマンの歴史を調べてみた。それによればこうだ。

当時、オアフ島で行われていた3つの耐久レースがあった。ホノルルマラソン (26.2 miles = 42.2km)、ワイキキ・ラフウォータースイム (2.4 miles = 3.8km)、アラウンド・オアフ・バイクレース (112 miles = 180km)。「この3つのどれが一番過酷か?」という酒の席での議論に決着がつかず、ジョン・コリンズという退役軍人が「それなら全部まとめてやってみよう」と提案したことが、アイアンマン・トライアスロンの始まりだという。

呆気に取られた。大雑把に理解した限り、アメリカ軍人の酒飲み話の延長で生まれたスポーツではないか。そんなノリで、そんなとんでもない距離を泳いで、漕いで、走ろうなんて狂気の沙汰としか思えない。

とりあえず俺には関係のない世界の話だ。ただ、そういう世界に住む超人たちが使う腕時計だということは理解した。物を売るには、まずストーリーが大事だ。「アイアンマン・トライアスロン 8-lap 復刻版」はストーリー十分。俺は自信を持った。

そして、日本で「アイアンマン・トライアスロン 8-lap 復刻版」の発売を記念して、販売コンテストが実施された。この商品を一番売った代理店とその担当営業マンが、アイアンマン・トライアスロン発祥の地、ハワイ島に行けるという。

トライアスロンはともかくとして、ハワイに行けるのは嬉しい。ハワイに行けたらいいなと思いながら営業活動に集中し、運良くその権利を得ることができた。そして俺は、ハワイ島カイルア・コナに行った。そこがトライアスリートの聖地とは知らず。

レース前日、俺はとある年配の選手と話す機会があった。家族と仲良く歩いていたその人は、失礼ながら見た目は「超人」とはかけ離れていた。「ご家族の応援ですか?」と聞くと、彼は恥ずかしそうに「実は私が出るんです」と言った。応援に来ているのは、奥さん、娘さん夫婦、そしてお孫さん。「頑張ってください。幸運を」を言って彼と別れた。

レース当日の明け方、眠い目をこすりながら、半ば義務的にスイムスタート地点に向かった。ところが、現場でアイアンマンの雰囲気に圧倒された。スタート直前の緊張感に息を呑んだ。TIMEXを着けたアスリート達が次々とゴールするのを応援し、いつの間にか23時を過ぎていた。深夜だというのに、カイルア・コナはますます盛り上がり、スポーツ大会というより祭りの様相を呈していた。

フィニッシュラインに次々と飛び込んでくるアスリートたち。早くフィニッシュした人も、遅く戻ってきた人も、一様に晴れ晴れとしたいい顔をして、観客からの賞賛を一身に受けていた。1位であろうとビリであろうと、「ゴールした者がみんな勝者」というトライアスロンのコンセプトをそこで理解した。

レース終了の制限時間は深夜0時。その数分前、あの年配の選手がレッドカーペットを走ってきた。走っているというより、ヨロヨロと倒れ込むように。その人に向かって、思い切り声を張り上げ応援する。「お前の知り合いか?」と聞いてくる周りの人たち。「昨日はじめて会った!」と答える。彼らは笑いながら、俺と一緒にその人を応援してくれた。

その人がフィニッシュした瞬間のことはよく覚えている。奥さん、娘さんと抱き合い、お孫さんを肩車するボロボロの年配のトライアスリート。その彼にかけられた言葉。

“You are an IRONMAN!!”

トライアスロンなんて特に興味なかった。仕事でたまたま来ただけだ。だけどこれはなんだ。気がつけば、腹の底から声を出し、手が痛くなるほど拍手し、涙が流れるのを抑えられなくなっていた。

これがアイアンマン。こんな世界があったなんて…。

Ironman Hawaii 2016 Finish Line
* 上画像は2016年大会のものです。

第2話「何かの縁」に続く

※ トライアスロンなんて興味なかったけど何故か今やってる、という方は下の応援バナーのクリックをお願いします。
にほんブログ村 その他スポーツブログ トライアスロンへ
にほんブログ村

 - アイアンマン・ケアンズ2016