ハセツネ挑戦記 2016 – 第8話「大丈夫です、イケます」

   

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第7話「ハセツネ30K大渋滞」に戻る

 

9時50分、レーススタートから1時間20分。そのうち30分は渋滞待ち。ようやくトレイルに入った。トレイルに入ったら渋滞は無くなるのだろうか、という淡い期待はあっさりと消えた。視界の及ぶ限り、渋滞は続いている。

ジリジリとしか進まない集団。なるべく早く進みたいと思うのだが、人ひとりくらいしか通れないコースのため、それは叶わない。こういうものと受け入れて進むしかない。

ところが、「早く進みたい」などというのは、とんだ勘違いだとすぐに分かった。かなりの急勾配がひたすら続く。膝に手を置き身体を引き上げるような動きでやっと登れる。心拍数が一気に上がる。登り切ったと思うと急な下りで脚を削られ、すぐにまたキツい登り。これが何度も続く。

前には人がたくさんいる。そして、すぐ後ろにも人は連なっている。登りがいくらキツくても、足を止めることはできない。渋滞の元になってしまう。汗が目に入る。前の人が急に素早く動く。登りが終わって下りになったのだ。息が切れた状態で、前の人に続いて走る。

前の人に遅れてはいけないと、狭いけもの道のような下りを走っていると、早くも脚に疲れが出始めていたのか、脚が少しもつれた。身体が谷の方にフラつく。その向こうは崖。落下を阻んでくれそうなものは何もない。落ちたらほぼ間違いなく死ぬ。ゾッとして全力で身体を山側に傾ける。木に掴まり、思わず止まってしまった。後ろの人が抜いていく。汗が冷たく感じる。

慎重に、怪我をしないように。それを強く意識しながら、無理せず進む。下りでバランスを崩して谷側に振れてしまえば、命に関わる。それからは、周りのペースやタイムなどは考えず、安全に進むことだけを考えて進んだ。後ろの人が詰めてきたら、脇によけて「どうぞ」と声をかける。

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※ トレイル入口。写真はイメージ。実際はここに選手が殺到する。

 

11時、無心になってひたすら歩き、安全と思う場所では走る。手元のTIMEXを見ると、山に入って1時間少し。今自分はどのあたりにいるのだろう。ペースは?標高は?GPSウォッチでないので何も分からない。

ふと、昨年末にGoさんハリテンさんと一緒に青梅の山を走ったことを思い出す。そのときに初めて会ったGoさんの従兄弟の藤田さんが、地図読みを教えてくれたのだった。致命的な方向音痴の俺でも、なんとか分かった気にさせてくれた達人。彼ならGPSウォッチがなくても、今の場所が分かったりするのだろうか。

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※ Goさん、ハリテンさんと山の頂上で。

 

そういえば、藤田さんは13km地点でボランティアをしていると聞いていた。まだ彼には会ってない。1時間以上歩いて3kmも進んでいない?いくらなんでもそんな…。また何も考えず進む。

 

11時半、15km地点の標識が見えた。ボランティアスタッフの声が聞こえる。いかにも山男、といった雰囲気のヒゲの男性。

 

「藤田さ〜ん!」

「駒田さん!」

 

よかった。13km地点ではなく、15km地点にいたのか。山に入って1時間半、たった3kmだったら立ち直れないところだった。いや、たった5kmに1時間半もかけているのだ。十分ヤバい。

自分の中で「よかった」「ヤバい」が交錯する。藤田さんの隣に立ち止まり、思わず弱音を吐いてしまう。

 

「まだ半分…」

 

「大丈夫ですよ、ここからしばらくは下り基調になりますから。いけますよ!」

 

驚いた。「大丈夫です、イケます」カズがよく使う言葉だ。

少し冷静になり、コースマップを思い出す。確か、一番標高の高いところが15km地点。そうか、ここからは下りなのか。

 

「ありがとうございます!行ってきます」

 

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15km地点の藤田さんと別れて少し進むと、アスファルトの道に出た。第一関門突破。

スタッフの人が俺を指差して、「1588位!」と言った。確か、男女合わせて1800人弱参加しているはずだ。相変わらず、後ろから数えた方が早い。

苦笑しつつロードを走る。ここから先は、5km以上ひたすらロードの下りとなる。特にスピードを上げるつもりがなくても、体重が重いので自然とスピードが上がる。クラウドサーファーがしっかり守ってくれると信じているので、スピードに身を任せる。先行している選手たちをガンガン抜いていく。

12時、20km地点の標識を見つけ、信じられない気持ちになる。15-20kmまでの5kmは、30分もかかっていない。10km-15kmまでの5kmは、その3倍もかかっているのに。残り10km、制限時間まで3時間。

 

少しだけ安心して、マイペースで走っていると、向こうに神社の鳥居が見えてきた。コースから少し離れたところにある。わざわざコースアウトしてまで行くことはないかも知れない。でも、少しだけ手を合わせておきたい。そう思って近づくと、コース上から鳥居に向けて手を合わせている男性を見つけた。

「同じこと考えていたのかな」と思いつつ、男性の近くで鳥居に向けて手を合わせる。無事に完走できますように。

 

「……わっ!」

 

目を開けた男性が俺に気がついて声を上げる。驚かすつもりはなかったのだが。

 

「いや、すみません。もう無理かなぁと思って、そしたら神社が見えてきたからつい…」と、男性は少し気まずそうに自分から話してくれた。

 

「お祈りもしたし、もう少しだけやってみようかな…なんて。もう脚が動かないんですけどね…」

 

辛そうにしている男性。そんな彼に対し、15km地点で藤田さんに言ってもらった、そしてカズがよく使うあの言葉を言ってみる。

 

「大丈夫です、きっとイケます」

 

男性は目を見開いて驚く。

 

「…お祈りして良かったです。神様のメッセージみたいに聞こえましたから、今の」

 

半分くらいは自分に言い聞かせた言葉なのに、男性は喜んでくれた。良かった、少しは役に立てたのかも知れない。

男性と別れ、俺は俺で完走を目指す。残り10km。

 

第9話「2年ぶりのフィニッシュライン」に続く

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