ハセツネ挑戦記 2016 – 第3話「拝島の猫屋敷」

      2016/12/21

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第2話「日本山岳耐久レース、その前哨戦」に戻る

 

2016年4月2日(土)、ハセツネ30K前日。

俺は今、レースの舞台となる奥多摩へ向かっている。ヤスコは後で追いかけてくるそうだ。

いつもの出張であれば、宿泊先はカズが手配することになっている。その結果、数々の名勝負が生まれてきた。例えば、博多出張なのに何故か小倉に泊まるハメになったことがある。「博多から電車で15分のところですよ〜」と言っていたので安心していたら、「新幹線で15分」だったというわけだ。俺の宿運も大概だが、カズはそれを上回る逸材かも知れない。

しかし、今回泊まるところは、ヤスコが手配してくれた。ヤスコなら安心と言いたいところだが、やはり一抹の不安が残る。彼女は今週ずっと、「宿が見つからない」と言い続けていたからだ。

その結果やっと見つかったのは、JR拝島駅近くにある「ビジネスイン拝島」というところ。名前を聞いただけで、言葉にこもるオーラというか、何かググッと迫ってくるものがある。

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実際にビジネスイン拝島を見てみると、外観について特に言及すべき点はない。ローカル色こそ強いが、普通の宿である。少なくとも、外観だけで有無を言わせなかった「カサブランカ」とは違う。

しかし、玄関前に立ち、よくよく観察してみると、この宿の特殊性が見えてくる。

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ここはなんだ、猫屋敷なのか。似た模様の猫が、猫専用口から次から次へとホテルの中に飛び込んでいく。

猫専用口を備え付けたビジネスホテル。かつてない作り。名勝負の予感が隠しきれない。

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玄関先で猫どもと戯れることしばし。意を決し、猫専用口の横にあるヒト専用口から入館。

 

……むう、なんだこのスメルは。

寺か。入館するや否や、寺クラスの線香臭に包まれる。一瞬たじろぐが、まだこのくらいでグラつくわけにはいかない。スリッパに履き替え、フロントに向かう。

フロントらしきところには誰もいない。というか、そもそもヒトの気配を感じない。フロントに置いてある電話機の横に、このホテルのフロントが基本的に機能していないことを示す文言を発見した。

 

「応答がない場合は、旅館の代表番号 042-541-1056 におかけください」

 

このふてくされた対応。これはタダモノではない。

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「すいませーん…すいませーん!」

 

暗い廊下に虚しく響く声。やはり、スタッフはいないのか。しかたない。フロント電話の受話器を取り、指定された番号を…

 

スリッ……

 

脛に軽い衝撃を受ける。パッと下を向くと猫。

 

おまえ、スタッフかい?

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バリバリ……

 

何かを引っ掻いているような音が聞こえる。パッと右を見ると、俺のトランクの上に猫。

 

おまえ、ポーターなのかい?

 

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驚きで固まる俺をよそに、トランクにグイグイ顔をこすりつける猫。マーキングするんじゃねぇ。それは俺のだ。

しかし俺の主張も虚しく、どこからともなく猫が俺のトランクめがけて集まってくる。なんと、ポーター猫は仲間を呼んでいた。ねこA、ねこB、ねこCがあらわれた。

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「おい…おいってばおい…おまえら…… (パシパシ 」

 

トランクの取っ手を軽く叩くと、ポーター猫、ねこA、ねこB、ねこCはふいっとその場を立ち去った。ねこをやっつけた。

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ビジネスイン拝島改め、猫屋敷拝島にて早くも繰り広げられる戦闘。

俺のトランクを奪おうとしたポーター猫とねこA〜Cの一団を辛くも追い払うことに成功した。しかし、まだ問題は何も解決していない。チェックインすらできていないのだ。

声を張り上げても猫以外誰も寄ってこないことを確信した俺は、気を取り直して受話器を持ち上げた。コール音数回。

 

「…はい?」

 

電話口、そして同時に館内のどこかから聞こえてくる気怠い声。いるんじゃねぇか。はよ出てこいや。

しかし、このハマのダンディズムは声を荒げない。あくまで冷静に、低い声で語りかける。

 

「すみません、チェックインをお願いします」

「どちらさん?」

「駒田です」

 

「え?」

 

敬語を使っているのはこちらだけ。斬新なホテルだ。もうダンディズムとか言っていられない。普段通りに喋る。

 

「こ・ま・だ、です!」

「ちょっと待ってね!」

 

やっと出てきてくれた猫屋敷の大ボス、ねこおばさん。開口一番、衝撃的なことを言い出す。

 

「その名前はないのよねぇ〜」

 

マジか、奥多摩で野宿は勘弁してくれ。ハセツネ本戦じゃあるまいし。

前原という女性が予約してくれていたこと、宿泊者は駒田と前原の2名だということ、そして二部屋別々でお願いしているはずだということを、必死に説明する。

 

「マエハラさん…ああこれね!」

うん。

 

「で、お兄さんは…島田さん?」

ううん。

 

「村上さん?」

どこから出てきたそれ。

 

「ないわねぇ〜」

「島田です」

 

こうしてねこおばさんとの押し問答の末、なんとか部屋への潜入を果たしたハマのダンディズムこと島田さん。カオス。

どんな部屋なのかとハラハラしながらドアを開ける。縦横無尽に宿内を闊歩するポーター猫率いる猫軍団がスルリと入り込まないよう、十分に気をつける。

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意外とサッパリした部屋だ。線香臭もほとんど無い。このくらいであれば、むしろ爽やかな香りと言える。布団が無骨な点はやや突っ込みどころかも知れないが、そんな細かいことはもはやどうでも良い。

なぜなら、素晴らしいことに、この部屋のトイレは非常に綺麗なのだ。ウォッシュレットまで装備している。もうそれだけで俺は生きていける。

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しかし、どうしたことだろう。さっきからクシャミが止まらない。猫アレルギーか。ハセツネ危うし。

 

…ヤスコよ、猫屋敷拝島で待つ。

 

第4話「ビジネスイン拝島のもてなし」に続く

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