センチメンタルランと電撃風呂 – 第2話「センチメンタルラン」

   

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第1話「ヤスコ Fly on clouds」に戻る

Triathlon LUMINAの撮影を終え横浜に戻ると、オリヴィエからメールが届いていた。

「やあ、最近いい感じみたいだね!日本チームはどう?」

実は、スイスメンバーにも今回の「ヤスコ Fly on clouds」の一件を伝えていたのだ。オリヴィエはとても嬉しそうだった。オリヴィエやキャスパーは、俺にとって恩人に等しい。彼らに喜んでもらうことは、俺にとっては恩返しのようなものだ。

「おかげさまで順調だよ。まるで、夢の中を生きている (living in a dream) みたいだ」

夢の中、とは少し大袈裟に聞こえるかもしれないが、自分にとってはそうでもない。3年前、当時の会社から命じられてイヤイヤはじめたランニングシューズの仕事が、家族と別れてひとり、鎌倉の山の中のマンションで過ごすことの多かった俺の生活を一変させてくれたからだ。

Onに出会う前といえば、パンイチで空手の稽古をするくらいしかやることがなかった。それが、走ることが少しずつ楽しくなり、ランニングを通じて新しい友達が増えた。歩いていても悲しいだけだった由比ヶ浜や七里ヶ浜が、気持ちよく走れるお気に入りのコースになっていった。走っている最中、腹を壊して海に消えていったのも、今となってはいい思い出だ。今日、そこで撮影できたのも何かの縁だろうか。

Onが走る楽しさに気づかせてくれて、何かに挑戦する喜びを教えてくれたのだ。まさか自分がトライアスロンやトレイルランの大会に出ることになろうとは、想像もしていなかった。いくら感謝してもしきれない。オリヴィエに返事を書き、俺は眠った。

翌日、俺はまた鎌倉に戻っていた。やはり俺は、鎌倉がまだ好きなのだと思ったからだ。大船駅近くの銭湯「ひばり湯」に荷物を預け、以前、よく走っていた場所に向かう。

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目的地は六国見山。去年の冬、グフカスタムを抱えて駆け上がったのが遠い昔のことのように思える。グフカスタムの撮影場所で記念の自撮りをする。

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鎌倉天園の脇を通り、山を降りようとしていると、いつものように迷ってしまった。方向感覚が壊滅している俺のこと、こういうのには慣れている。

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ぐるぐるしながら降りた場所は、昔住んでいた場所にほど近いところであった。ここに出てしまうとは不思議だ。あの頃の記憶と、昨日のオリヴィエのメールを一緒に思い出す。

「そうだね。ヒロキは夢の中を生きている。そして、もっと素晴らしいことは、夢の中を進む舵を取っているのは、ヒロキ自身だということだよ」

この場所から走り始め、たくさん友達ができ、カズヤスコが仲間になった。4人目の仲間も決まり、3月から一緒に働いてくれることになっている。夢のようだ。その舵を自分が…。

「君のチームと一緒に、これからも素晴らしい仕事をしてくれると知っているよ」

マンションの横を通り過ぎ、ペースを上げる。もうここに戻ってきても悲しくない。もっとスピードを上げる。息が切れる。オリヴィエの声が後押ししてくれる。

「Go, live your dream!」

色々なことが過ぎ去って、嬉しいことがたくさん人生に飛び込んできてくれた。そんなあれこれがつい昨日のことのように思い出せるのに、それはもう3年も前のこと。

そんなことを考えながら、すごく長く走ったような気がするのに、それはほんの10kmのこと。人生もランも、短いようで長く、長いようで短いのだろうか。

しまった……昔を思い出したら、どうもセンチメンタルな野郎になってしまったようだ。俺のくせに。銭湯であったまって、横浜に帰ろう。

第3話「電撃風呂」に続く

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