休んでもいい。心の中で辞めなければいい。

   

稽古

前回「教えを忘れた空手家」に戻る

 

司法試験から逃げ、最初の就職先から逃げ、俺はとんだ逃げ出し野郎になっていた。

空手家の心など、ほとんど消えかけていた。それでも、ひとつ心の中に残っているものがあった。初段になった日の夜、小暮先生から言われた言葉だ。

 

「稽古を続けなさい。勉強や仕事で忙しくなったときは休んでもいい。

 

心の中で辞めなければいいのです」

 

だから俺は、また道場に戻るようになっていた。藤原先生や内田先生は、当然のように俺を迎えてくれた。藤原先生が「おっ、久しぶりだな!」と言ってくれたとき、俺は少し救われたような気がした。

小暮先生に教わって忘れかけてしまったもの。いつかそうなりたいと憧れた藤原先生の姿。空手家の心と強さ。すっかり弱ってしまった心と身体を持て余しながら、家といわず道場といわず、俺は稽古に没頭した。

追い突き、前蹴り、回し蹴り、そして形。相手がこうきたらこう返す。それに対してこう出てこられたらこう切り返す。実家の居間の窓に映る自分の姿を確認しながら、ひたすら動き続けた。居間の床は汗で水びたしだ。

そんな俺を横目で見て、俺を拳生会に連れて行った母親は、「まったく、何になりたいのかしらねぇ〜」と笑っていた。

何になりたいか、はっきりとはわからない。でも、今は強くなりたい。

少なくとも、次はもう逃げたくないと思った。

 

稽古

 

 

次回「強さを勘違いし始めた20代」に続く

※ なんだか長い話になってきましたが、徐々に現代に近づいてきました。次回に続きます。下の応援バナーのクリックをお願いします。
にほんブログ村 その他スポーツブログ トライアスロンへ
にほんブログ村

 - ブログ, 空手