最後のチャンス。

   

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前回「使えない駒田」に戻る

 

小学校を卒業して、私立の中学校に進学した僕は、何か部活をやろうと思っていた。

身体が弱いことは、男としてどうしようもなく不利なのだと、小学校時代に心底思い知ったからだ。

小学校で僕は知ってしまった。弱さを隠そうとしても、他人は絶対にそれを見逃してくれないと。

それどころか、こちらが必死で隠そうとしているものを他人は容赦なくほじくり返し、みんなに見えるように高々と掲げ、「ほらみんな見てみろ、コイツはこんなに弱い」と声高に宣言してしまう。

 

「駒田は『ゼンソク』なんだよな。だからズル休みするんだ」

 

頭にきて口答えしても、腕ずくで黙らされてしまう。体育の授業すらまともに参加できない僕は、きっとクラスの誰よりもケンカが弱かった。

子供の僕が、「子供は残酷だ」と分かってしまった。だから、弱いのはもうイヤだ。強くなりたい。そうでないと、恥ずかしくて悔しい、あのなんとも表現しがたい感情に潰されてしまう。

だけど、走るのもイヤだ。あの息苦しさだけはどうしても耐えられない。酷くなるとまた座って眠らないといけない。それでもダメなら、病院で「吸引」をやらないといけない。

そこで僕が考えたのは、「走らなくていい部活」に入ることだった。要は、砂ぼこりが舞う校庭で走らなければいいんだ。

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その条件に合いそうなのは、剣道部だった。練習内容は、部活見学のときに見せてもらった。剣道部の上級生たちは、体育館で練習をしていた。体育館なら大丈夫かも知れない。僕は剣道部に入部届けを出した。

その考えが全く甘かったと気がついたのは、入部直後のことだった。

入部したばかりの1年生を待っていたのは、基礎体力をつける練習だった。腕立て伏せ、腹筋、そしてジョギング。体育館で竹刀を振れるのは、もっとずっと後からと知った。

他のどの1年生より遅く走っているくせに、身体の奥からヒューヒューゼイゼイと音を立てながら、僕はもう諦めていた。結局、3ヶ月ももたなかった。

 

「博紀、近所に空手の道場があるみたいだけど、のぞいてみる?」

 

お母さんがそう話しかけてくれたのは、僕が帰宅部になってすぐのことだった。

もうそれしかない。これが最後のチャンスだ。何の根拠もなく、直感的に僕はそう思った。

 

次回「素質はない。逃げ道もない」に続く

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