スイスから日本へ、雲を集める旅 – 第2話「ムルクのオシャレ監獄」

      2016/09/16

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第1話「阿鼻叫喚ワークショップへ」に戻る

2015年9月20日(日)、6時20分。

香港経由のキャセイパシフィック機は、ようやくチューリッヒ空港に到着した。これから空港を出たら、宿泊地「ムルク」への1時間半の旅が始まる。

日本だと1時間半は、通勤のギリギリ許容範囲内だと思うが、こちらの人にとって、1時間半の電車の行程というのはどうやら「旅」らしい。重度の方向音痴により、何度来ても土地勘が養われない俺にとって、それは旅ではなくもはや冒険

そもそも、慣れた人で1時間半なのだ。俺なら2時間以上かかると思った方がいい。Googleマップが頼みの綱だ。気を引き締めて行こう。

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しかし、心の準備を整えつつあったところに、意外なアナウンスが流れてきた。

「機長です。当局が機内の調査を行うことになりました。調査が終了するまで席を立たないようにお願いします」

アナウンスが流れる直前、ガタイのいいスイス人の男女5人ばかり、ドヤドヤと後部座席の方に向かった。後部座席にいる誰かを尋問しているように見える。

その尋問(?)の様子を写真で撮ろうとした別の中国人乗客が、CAから厳しく止められている。状況がよく分からないので、本を読んで待つことにする。

その10分後、機長から再度アナウンス。

「え〜…機長です。

当局…警察から今得た情報によりますと、現在取調べを受けている乗客が、他の乗客の所有物を不法に取得したため、引き続き調査が必要とのことです。

その物の所有者が分かり、所有者に戻されるまで、皆様は当機から降りられません

機内、ざわめく。後ろの席のスイス人のおっさんが笑い出す。

「そいつが誰かの物を盗んだから、それが返されるまで俺たち降りられないってこと?」とおっさんに聞くと、おっさんはゲラゲラ笑いながら「オゥ、イエス!降りられないんだってよ、俺たち!」と言っている。

後部座席をよく見ていると、警察は何人かの中国系の乗客を立たせ、ボディチェックをしている。そのうちの一人を重点的に調べているようだ。会話が聞こえてくる。

「英語は話せますか?」

「ノー」

「立ってください」

「なんで立たないといけないんだ」

「あなた英語分かってますよね」

…これは笑っていいのだろうか。

数十分後、なんだか分からないが機外に出ていいということになった。念のため、財布とパスポートがあるかどうか確認して移動する。機外に出ると、そこには警察官たちが待ち構えていた。パスポートを見せ、目的地を伝える。

さて…やっとここからスタートか。

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飛行機が空港に着陸してから2時間。ようやく空港の外に出ることができた。

マックで朝飯を済ませ、電車の切符を買い、チューリッヒ空港駅から3番ホームの電車に飛び乗った。これを逃すと30分後。クラウドを履いていて良かった。我ながらナイスラン。

順調にいけば、1時間半後にはムルク駅に到着するはずだ。スイス国鉄の旅は、よく考えればこれが初めてかもしれない。

実は、スイス国鉄には思い入れがある。前職では、TIMEXだけでなく、スイス国鉄公式時計「Mondaine (モンディーン)」というブランドのマーケティングの仕事もしていたからだ。

モンディーンの時計は、スイスの駅や空港などを中心に、スイス国内3,000ヶ所以上で見ることができる。誰でも遠くから読み取れる時分針、そして秒針の先の赤い丸がポイントだ。今から約70年も前にこのデザインは完成していた。

視認性を極限まで突き詰めつつ、現代でも古臭さを感じさせない機能的デザイン。機能性とデザイン性の融合。それがスイスデザインの真髄かも知れない。そういうスイスデザインのDNAは、Onにも受け継がれているのだろう。

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1時間半後、奇跡的にムルク駅に到着。耳に全神経を集中し、乗換駅を聞き逃すまいと必死だったのが功を奏したか。ムルク駅は、人がまるでいない田舎駅のようだが、実にいい雰囲気だ。

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駅を出て、今日と明日の宿、「Lofthotel (ロフトホテル)」に向かう。きっと小洒落たところなのだろうが、今回の旅ではもはや缶詰でしかない。そのロフトホテルは、駅からほど近い丘の上に立っていた。壁から四角いベランダが張り出している。むう、洒落ている。

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チェックインができないか聞いてみたが、まだ今は午前中。やはり早すぎるようだ。13時にならないと準備ができないらしい。ただ、明日からの阿鼻叫喚ミーティングの舞台には入れてくれた。これまた洒落ている。しかし俺は騙されないぞ…。

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ミーティングルームにいてもやることがないので、ムルクの街を見てみようと外に出た。正直、クタクタなのだが、なるべく身体をスイス時間に慣らせておきたい。

メルヘン的な雰囲気が溢れる街には、人がほとんどいない。腹が減りつつあるが、レストランのような場所も見当たらない。まあなんとかなるだろうと思い、のんびり歩く。街中には、謎の蛇口がいくつもある。そんなのを見ながらただ歩くだけでも楽しい。ただ、もしかしたらこれは現実逃避なのかも知れない。

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ホテルを出てフラフラしていると、湖に出た。Googleマップによれば、ここは「Walensee (ヴァレン湖)」らしい。とてもきれいなところだ。小さなヨットが無造作に置いてあるのも様になっている。

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湖畔に立つ小さな家のオシャレさも尋常ではない。

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ヴァレン湖のほとりはキャンピング場になっているようだ。ただ不思議なのは、タイヤが付いていないキャンピングカーがたくさん湖畔に並んでいること。ここにそのまま住んでいるのだろうか?

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そろそろ本格的に腹が減ってきたので、何か食べられるものはないかとさまよう。しかし何もない。こういうとき、日本の便利さを実感する。

ようやく“Camping Kiosk”と書いてある建物を見つけた。例のごとく、英語のメニューはない。美人の店員さんに「サンドイッチとかありませんか?」と聞いてみる。

「×◎△♪@?」

…英語は通じないようだ。向こうは自信満々にスイスジャーマンを話してくる。整った顔に灰色の目と鼻ピアスが迫力十分だ。「チーズ!」と聞こえた気がするが、もうダメだ。ここは万国共通語でしのぐしかない。

「コーラ…ビッテ!」

「ダンケ」

ふう…なんとかなった。何も解決していないことには少し後で気がついた。腹が減った。

小一時間の散歩を終え、ロフトホテルに戻る。ちょっと歩いただけなのに汗を随分とかいてしまった。やはり、20時間近くの旅で疲れている。何か食べて、早めにチェックインさせてもらい、少し部屋で休みたい。

フラフラとホテルの玄関にたどり着くと、Onのジャケットを着た女性2人を見かけた。”Hi”と声をかけてみる。

「あなたが日本のヒロキね!たくさん噂は聞いているわ。リサよ、よろしくね!アメリカ支社でファイナンスを担当しています」

「私はブリット、マーケティング・マネージャーよ!」

「たくさん噂…いい話だといいんだけど

もちろんいい話だけよ!

うむ、これが英会話名物「たくさん噂は聞いてるわ → いい噂かな? → もちろんよ!」パターンか。もはや様式美。このパターンは覚えておいて損はない。カズさん、テストに出るぞ。

それにしても、Onジャケットを着ているということは、これから走るのだろうか。と思ったら、いかにもクラシックな黒い大きな自転車が2台出てきた。

「これからサイクリングに行くの。一緒にくる?」

魅力的なお誘いだが、今の俺は空腹と疲れで廃人寸前。「メシ食ったら追っかけるよ」と、軽いジャパニーズジョークで彼女たちを見送った。

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リサとブリットと別れ、ようやくチェックイン。部屋は一見洒落てはいるが、無骨の一言。天井は高く、壁は漆喰で塗り固められている。

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収納スペースはゼロ、冷蔵庫もない。仕事をしようにも、マトモな机はない。特筆すべきは、ベッドルームとシャワールーム、そしてトイレがシームレスに繋がっている。

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これはまさか…オシャレ監獄。舞台は整ったということか。

第3話「英語死プレゼン」に続く

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