九十九里トライアスロン 魔城カサブランカ編 – 第6話「カサブランカの呪い」

      2016/08/02

99T team On

第5話「前島、アウト」に戻る

実は、スイムは5ヶ月ぶり。4月の宮古島以来ということになる。やや不安もあるが、スタートの号砲が鳴ったので川に飛び込む。飛び込む寸前、川底についた足がヌルッと滑る。この感じ、デビュー戦の渡良瀬を思い出させる。

最初のブイを左に曲がり、川を海に向かって泳ぎ、橋を二つ超えたところで折り返し、さっきまで下ってきた川を上る。九十九里トライアスロンのスイムコースは、直線折り返しの1.5km。

最初のブイを曲がるところでバトル。バトルが苦手な俺は大回りして外側をゆっくり回る。海に向かう直線で、まずはスイムのおさらい。

水をキャッチしたときに、同じ側の足で一度キック。同時に反対側の腕を肩甲骨から伸ばすつもりで。体幹が回旋するような感覚と共に、前にスーッと進む。意外といい感じだ。息継ぎのときに岸を見ると、自分でも驚くほどのスピードで進んでいる。おおう、何これ俺すげ…

バキッ!

「ぶはっ!」

顔面に強い衝撃。目の奥に火花がチラつく。眉間を足の裏で蹴られた。なんで?ヘッドアップして前方を確認。すぐ前に力強い平泳ぎで進む同ウェーブの選手がいる。

もう平泳ぎしやがって!ここは川じゃないのか?道場か?

言いたいことは山ほどあるが、また蹴られてはたまらない。彼の力強い後ろ蹴りをかわしつつ、側方に回り込む。

スイムのおさらいをしていて気づかなかったが、周囲には平泳ぎをしている選手がかなりいる。そういえば、デビュー戦の選手が数百人いると説明会で話があった。これは気をつけなければ。

細かくヘッドアップをして前方を確認しながら進む。仰向け平泳ぎの手練もいる。これは逆に初心者には難しいのではないだろうか。バトルを避け、後ろ蹴りをかわしていたら、いつの間にかジグザグに泳いでいた。そして折り返し。

このあたりになると、ひとつ後ろのウェーブの速い選手が追いついてきた。逆に、前のウェーブの選手にも追いつきはじめる。九十九里トライアスロンは参加選手2,000人。混み合って泳ぐ状況は変わらない。バトルを避けていたらダメだ。そろそろ苦手を克服しなければ。

肩を掴まれたら受け流し、脚に手がかかったら軽くバタ足。対処としてこれが正しいか分からないが、なるべく体力を使わずに捌く。

…と思ったらまたもや鼻柱に衝撃。鼻血が出たんじゃないかと思うくらい、こっぴどく蹴られた。平泳ぎのキックだ。態勢を立て直す間もなく次の蹴りが飛んできたので、思い切り空手の外受け。今思えば相手の脚が心配だが、さすがに頭にきた。

ズキズキ痛む鼻を気にしつつも、なるべく早く終わらせたい一心で泳ぐ。気がつけばスイムは終わっていた。手元のTIMEXをチラリと見ると32分。オリンピックディスタンスのスイム、まさかの自己ベスト。水から上がると、茂木さん前島さん、そして計測中の船越さんの声が聞こえた。

「行け!駒田!走れ!」

水中バトルでアドレナリンが出ていたのか、ゴーグルを外すことも忘れてダッシュ。次は、日本最長トランジションからのバイクだ。

99T Swim Finish.jpg

日本最長を誇るトランジションエリア。スイムフィニッシュからバイクスタートまで、実に1kmを裸足で走ることになる。茂木さん、前島さん、船越さんの応援を背に、はじめてのベアフットラン。途中、ウェットスーツを脱いではまた走り、ヒーヒー言いながらバイク置き場に到着。

今回乗るのは、前島さんから借りたCorratec。今となっては前島さんの形見的な存在か。ドブに消えた前島さんの想いを受け継ぐのだ。

99T Bike

「鉄ゲタですけどいいバイクですよ…^_^ ですよ……^_^ (エコー)」

前島さん…見ててくれ(T_T)

バイクスタート地点は、九十九里有料道路の一宮料金所。ETCを使って入るゲートをバイクで。すごい非日常感だ。

事前に聞いていたとおり、バイクコースはアップダウンのあまりない平坦なコース。ただし、海沿いを真っ直ぐ突っ走るので、風が強い。

雨がパラつき風にさらされ、いつもの俺ならすぐにも下しかねない。だが、宮古島で存分にトイレ経験を積んだ俺は、起床直後に3錠、スタート直前に3錠、合計6錠の正露丸を投与している。おそらくこれはオーバードーズ。だが、そうしなければ目標の3時間は切れないという絶対の自信がある。

正露丸6錠の安心感のおかげで、トライスーツの上には何も羽織らない。自分の肩パット以外に余計な空気抵抗は存在しない。はじめから攻めの姿勢で漕ぐ。とはいえ、やはり海沿い。風はかなり強い。そして、ほとんど平坦とはいえ、行きは微妙に登り基調のようだ。平均30km/h以上で行きたいのに、気を抜くとすぐに28km/h程度まで落ちてしまう。

折り返しの20km地点で41分。平均ほぼ30km/h。折り返したら下り基調になるはず。まだいける。後半に入り、少し強めに踏み込む。風も少し収まってきたように思える。スピードが上がる。ここまでたくさん抜かれているが、何人かは抜いている。遅いなりに、自分のレースができている。

「駒田さん!」とすごいスピードで右を抜けていく人に声をかけられる。ブルトレの中川さん。ここで会えるとは。なるべくついていこうと頑張るが、中川さんはみるみるうちに遠ざかっていった。

中川さんが走り抜けてから、ほとんど一人旅に近い状態になった。不思議なもので、前方に誰かがいると、普段よりスピードが出る。逆に、一人だと大してスピードが上がらない。

それからは、なるべく前方にターゲットを見つけ、その人を抜くことに集中した。すると、なかなか良いペースで走れる。

サイクルメーターが38kmを示した。もう間もなく、バイクのフィニッシュゲートが見えるはず。さらに踏み込む。しかし、40kmになってもゲートは見えない。

41km、一宮料金所が見えた。1km長い。後半21km 38分、平均34km/h。バイク41kmで1時間19分、平均31km/h。

99T Bike Course

3時間まで残り56分。あの長いトランジションを考えれば、ラン10kmに残された時間は50分程度。

バイクで疲れた脚には、このトランジションはより長く感じる。それでも、スイムからバイクへのトランジションは10分以上かかったが、バイクからランへのトランジションは4分ほどで済んだ。3時間まであと52分。少し厳しいが無理じゃない。

走り始め、地元の関さんから応援をもらった。そこで元気をもらってスピードアップ。少し息苦しいと感じたが、バイク直後だからだろうと思うようにする。バイクではずっと鼻水が出っぱなしだったし、息苦しいのはそのせいだろう。

しかし、ズルズルとペースが落ちていく。息が苦しい。鼻水のせいじゃないらしい。喘息一歩手前のような感覚だ。無理やり力を入れて呼吸するため、背中と首の筋肉が痛む。カサブランカの呪い (=ハウスダスト) が原因なのは明らか。事前に喘息薬を吸っておいてよかった。

ペースは落とさざるを得ないが、キロ5分近くを守らないといけない。今だけペースを落として、呼吸が落ち着いたら上げていくことにしよう。

「コマちゃん」背中をポンと叩かれ、振り向くと松さん。軽やかに、颯爽と走り抜けていく。クラウドレーサーがよく似合う。

一方俺は、軽快さからほど遠い雰囲気で、じっと我慢して走り続ける。キロ5分半くらいのペースに落とす。それでも苦しい。思わず目を閉じて走ってしまう。早く回復しろ…。

「駒ちゃん!!」

驚いてパッと目を開くと、対向車線側に笑顔の卓ちゃん。もう折り返ししたのか、さすがアイアンマン。

卓ちゃんとすれ違ってしばらく進むと、見覚えのある景色になった。これは…魔城が近づいてきている…?もうすぐ折り返し地点だ。早く折り返させてくれ。しかし、その願いも空しく、前方にバーンとそびえ立つ看板が見えてしまった。

「ペンション カサブランカ 99」

看板が見えるやいなや、特大のクシャミ一発。条件反射か。ダメだ、タイミングが悪すぎる。それなのに笑ってしまう。この笑いはつらい。

不幸中の幸いで、そこからすぐに折り返し地点だった。ここまで26分。我慢の走りだったわりには悪くない。目標の3時間まで、残り26分。

折り返して海沿いを走る。海風が強いが、呼吸は楽になってきた。鼻水も止まっている。カサブランカから離れるにつれて治っていく。呪いの効果が消えていっているのだろうか。不思議だ。

ともかく、これで前半より上げれば3時間は切れる。ところが、ペースアップを試みるも、風が強くスピードに乗り切れない。またもや風を味方にできない。

ランスタートから約50分。もうすぐのはずだ。だが、フィニッシュラインは全く見えない。また距離が違うのだろうか。ラストスパートをかけるが、3時間を超えてしまった。

3時間を超えたら罰ゲームがあると、とあるワルい人たちから事前に通達があった。ある意味、もう罰ゲームは十分に受けているのだ。どうにか勘弁してもらえないだろうか。しかし、奴らのニヤリとした笑顔が思い浮かぶ。ダメだ、多分逃げられない。

折り返してから30分が過ぎる頃、ようやくフィニッシュゲートが見えてきた。ペースを上げてきたはずなのに、予定より5分余分にかかっている。10kmじゃなくて11kmあるのではないか。しかし、言い訳しても3時間を切れなかったのは変わらない。あとは1秒でも早くフィニッシュしよう。

「駒田!行け!走れ!」

茂木さんのメガホン越しの重低音と、前島さんの笑顔が見えた。前島さん、ようやく笑顔が戻ったか。それなら、最後くらい全力で走れとばかりにダッシュ。

フィニッシュ間近、順子さんが見えたのでハイタッチしようとするが、思い切り空振り。もう周りが全く見えていない。そのままフィニッシュラインを駆け抜けるようにゴール。ラン、57分。トータル、3時間5分42秒。無念。

最後のダッシュが効いたのか、フラフラになって座り込んでいると、卓ちゃんが声をかけてくれた。はじめて一緒のレースを走れた。フラフラのまま記念撮影。

Takuchan

卓ちゃんと別れ、前島さんや茂木さんを探したがなかなか見つからない。ウロウロしていると、いず美さんが俺を見つけてくれ、風よけにとテントに入れてくれた。そして、茂木さんに電話してくれるいず美さん。優しすぎる。

いず美さんのテントで一休みして外に出ると、ビニール傘を松葉杖のように使う前島さんを見つけた。前島さんと茂木号へ向かう。ここにいれば仲間を迎えられる。早速、中川さんと再会。今回がはじめましてだったので、中川さんとも記念撮影。

Nakagawa-san

茂木号に、ゴールした仲間たちが集まってくる。女子でスイムラップ1位を獲ったさやかちゃん、2時間42分でゴールした紗由巳さん。みんなすごい。ポンコツな自分の不甲斐なさが身に染みる。

「梅ちゃんは?優は?」と応援メンバーに聞くと、梅ちゃんはスイムで大いに苦戦し、はバイクでパンクしたらしい。俺はハウスダストに苦しみ、前島さんはドブ落下でDNS。TEAMカサブランカはとんだトラブル続きだ。柴田さんは大丈夫か?スイムに1時間かかったという吉田さんは無事か?全員の顔を見るまで安心できない。

しかし、心配することはなかったようだ。しばらくして、梅ちゃん完走。その数分後、軽快に走ってくる優。パンクを乗り越え、デビュー戦完走。そして、これまたデビュー戦の吉田さんも見事完走。約2ヶ月のトレーニングで完走するなんて素晴らしい。

ちなみに、柴田さんはとっくにゴールしており、フィニッシュライン近くのマッサージブースで回復に励んでいたそうだ。なんと、年代別1位を獲ったとか。TEAMカサブランカ最優秀選手は柴田恵美に決定。

「九十九里トライアスロン カサブランカ編」、これにて終了。そして期間限定チーム「TEAMカサブランカ」、これにて解散。終わり良ければすべて良し。

99T team On

……あ、罰ゲーム忘れてた。知らんぷりしよう。

エピローグ「罰ゲーム執行委員会」に続く

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